羽田圭介さんが語る「お金がもっとあれば買えると思うのはお金に対する幻想」

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羽田圭介さん(作家/36歳)

 新刊「三十代の初体験」を上梓した、芥川賞作家の羽田圭介さん。近年は作家活動とともにバラエティー番組出演でも話題だが、語ってくれたのは金銭感覚や貧しさについての考え方。詳しく話を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 大学卒業後に就職した会社を1年半で退社して専業小説家になりました。それから29歳で芥川賞を受賞するまでの一時期、収入が不安定でした。出版不況でこの先、どうなるのだろうという不安も生まれました。

 でも、会社員時代に東京23区外に中古マンションを購入したので住む家もありました。月々6万1000円のローンなどの支払いはあっても、バイトは一切せず、たまの飲み会や旅行も楽しんでいました。できなかったことといえば、通勤などがなくのっぺりした日々を送る中で精神にはずみをつけるために、必要もない車を購入するとか、1泊5万円でシティーホテルに泊まるといった突発的な贅沢ですかね。

■自炊で50皿分のカレーを作り置き

 食事はほとんど自炊でした。でも、食費の節約というよりは時間の節約が目的でした。外食はわざわざ出かけるので時間をとられるし、大したものが食べられないうえ、栄養バランスも悪く高カロリー。すると、次に運動するハメになって、そこでも時間がとられます。

 別に料理が好きなわけではないし、面倒くさがりだから、自炊はあえて一気にたくさん作って楽をしていました。作り置きしやすいカレーを、寸胴鍋や圧力鍋を使って50皿分くらいいっぺんに作り、半分を冷凍し、半分を冷蔵で1日3食カレーを食べ続けたりしました。飽きないので全然味変もせずに。よく作ったのはチキンカレー。効率性を重視してタマネギはミキサーに入れて細かくし、ジャガイモは煮崩れや冷凍でまずくなるのを避けるため、別に茹でて食べる前に投入したり工夫しました。

 鶏肉を使ったハムもよく作っていました。ブラジル産の冷凍鶏モモ肉を「肉のハナマサ」で4キロ購入して作り、食べていましたね。

ポルシェやフェラーリより数年前に買ったBMW

 昨年11月出版したエッセー「三十代の初体験」ではクリスマスケーキ作りに挑戦しました。クッキーを大量に作ったことがあったので、その延長線くらいに考えていましたが、手作りケーキは飾り付けるフルーツなど材料費が高くついて6000円くらいかかったし、買い出しも含めて完成までに3時間半もかかりました。その手間も含めて、市販のケーキがいかに良心的な価格か思い知らされました。自分で作ってみないと分からなかった感覚だなと思います。

 金銭感覚に関しても、お金がないからやらないだけだと思っていたことが、お金があってもやらないのだという気づきがありました。29歳で芥川賞を受賞後、いろいろな仕事が増え収入が上がっても食生活はあまり変わっていません。食材はレベルアップしましたが、つい最近もサケのハラスを食べ続けたり。車が好きなので2年前、1500万~3000万円ぐらいでポルシェやフェラーリを買おうとしたこともありました。でも、結局購入せず、その数年前に買ったBMWのセダンにずっと乗っています。

 そういう贅沢に関し、それが本当に自分の欲望なのかと冷静になってしまう部分が、僕の中にあるのでしょうね。そもそもお金がもっとあれば買えるのにといった思いは、お金に対する幻想で、願望と思っていたものも実は願望じゃないのかもしれないと。

 物欲が強くないのは成育環境のためかも。幼い頃に親しくしていたヒデ君は、おばあちゃんに新しい戦隊ヒーローのおもちゃを毎年買ってもらっていました。僕はというと、親が唯一買ってくれた数年前のヒーローのおもちゃで遊ぶわけです。新しいバージョンの戦隊ヒーローに脳内変換させて。おかげで、想像力が鍛えられましたし、ハングリー精神も培われたと思います。鍛えられたハングリー精神による弊害もありましたけどね(笑い)。

(聞き手=中野裕子)

▽羽田圭介(はだ・けいすけ) 1985年10月、東京都生まれ。2003年「黒冷水」で小説家デビューし、第40回文芸賞を受賞。15年「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞を受賞。21年11月、エッセー「三十代の初体験」(主婦と生活社)上梓。「三十代の初体験」では女装、猫レンタル、サウナフェス、サバ漁、ボルダリングなど46の初体験についてつづっている。4時間かけて顔をつくった女装では、顔の個性を消すのにヘアメーク陣が苦労し、長時間のカツラ着用で頭痛におそわれた体験も書かれているなど、気取らない筆致が楽しめる。

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