スバル・フォレスター徹底試乗で感じた「質実剛健」の進化
年間50台以上の車に試乗するが、何台か“印象深い1台”が必ずある。そのうちの1台がスバル・フォレスターだ。今年の3月にニューヨークで世界初公開され、続いて中国、そして初夏には日本と、主力マーケットで次々とデビューを果たした5世代目。スバルブランドの中で、グローバルに見て、もっとも人気が高い車だ。ジャーナリスト向け試乗会では箱根で2時間ほど乗ったが、普段使いなどをじっくりと試していない。そこで電動アシスト機構付きパワーユニット「e-BOXER」を搭載した、いわゆる“マイルドハイブリッド”の「スバル・フォレスター アドバンス」で試乗テストを行った。
目指したのは、試乗コースとして個人的によく使う東京~千葉県・佐原。片道100㎞少々、比較的高低差が少なく、現地にテストや撮影に適した場所や景色があることから、自身の仕事のルートとして便利。水郷とか小江戸とも呼ばれ、利根川水運の中継基地として栄えた人気ポイントであり、ごくごく普通の休日モードで試乗できるし、このルートでは泣きたくなるほどの渋滞をあまり経験していない。
安全性能でも正常進化していた
護国寺ICから首都高、京葉道、東関東道と走り、佐原香取ICを目指す。首都高速の路面のつなぎ目(段差)は、サスペンションの味つけを試すには絶好のポイント。驚いたのは、段差を突破してもタイヤから伝わるゴツンという衝撃がとても小さく感じること。今どき人気のSUVは比較的大きなタイヤを履いているため、サスペンションのセッティングによってはこの衝撃を上手くイナしていないクルマもあるが、フォレスターは衝撃を上手に手なずける。しっかりした剛性のボディーが緩衝材としての役割も果たしていて、高速クルージングは実に快適だ。
あまりの快適さに眠気を催したとしても、インパネのセンターバイザーに内蔵されたカメラがドライバーの顔を認識して警報を発する「ドライバーモニタリングシステム」を装備。安全運転を見守る先進機能としてはもちろん有用で、今回は幸い、眠気で警報を鳴らされることはなかった。一方で、高速走行中にナビ画面を見続けていたら警報が鳴った。つまり眠気でまぶたがとろんとした時はもちろん、危険を感じるほど視線が前方から逸れているときにも反応してくれる。
さすがはスバル、「アイサイト ツーリングアシスト」は標準装備だし、プリクラッシュブレーキや誤発進抑制制御、全車速追従機能および操舵支援機能付きクルーズコントロール、車線逸脱防止警報などは安全に対する基本システムはケチらず、その上での安全オプションも豊富に揃う。こうした対応を見るに付け、スバルがもっとも大切にしてきた安全性能でも、正常進化していることが分かる。
奇をてらわないデザインも安全第一の基本
ほとんど渋滞もなく快適な高速クルージングを楽しむと、1時間少々で佐原香取ICに到着。下総国(千葉県北部)の一宮であり、全国約400社の香取神社の総本社「香取神宮」で世界平和を祈る。ここは勝運、交通、災難除けなどにご利益があると関東屈指のパワースポットとして知られる。
駐車場に佇んでいるフォレスターは、個性的なデザインのお陰でクルマ群の中にあってもすぐに分かる。サービスエリアやスーパーの駐車場で、こうした存在感の強さは実に重要で、すぐに愛車が発見できることはオーナーにとって、密かなプライドのひとつ。しかしデザインと安全は密接に関連している。ただ闇雲にカッコいいことを目指し、視認性や使い勝手を無視すると、安全性は確立できないからだ。
その点、スバルはここでもある種の好ましい頑固さを見せている。先代でも高い評価を受けていたウエストライン、つまりサイドウィンドウの下端を低くして、視認性を確保していたが、ニューフォレスターでもその水平基調デザインをしっかりと受け継いでいる。最近のSUVは、クーペっぽくしたり、後方に行くほどウエストラインを高くするデザインが増えているが、フォレスターはあくまでもドライバーの視認性を優先。奇をてらうことのないスタイルからは、デザインも安全の一部という思いが感じられ、同車が2018年度のグッドデザイン賞を受賞したのも納得だ。
上質な乗り心地はSUVとして最良かも
香取神宮から佐原の市街に向かった。一般道でもフォレスターはSUVと言うより、乗用車のような乗り心地と走りを披露してくれている。この2リッター水平対向4気筒エンジン+モーターの「e-BOXER」というパワーユニットの素性の良さと、4WDとの相性さを感じながら世界中の観光客で賑わう市街地に入る。あのコマーシャルやパンフレットでも馴染みのある川沿いの古い町並みがいい。本来は、近所の駐車場において散策が正解だが、ちょっとだけ撮影したかったので川沿いの一方通行に入る。朝、比較的早いこともあって歩行者は少ないが、それでも細心の注意を払ってゆっくり走る。こうしたロケーションほど視認性の良さがドライバーのストレスを減らしてくれる。
ひと通り“小江戸の風景”の取材撮影を終えると、水郷ならではの景色を求めて郊外のルートで「水郷佐原あやめパーク」に向かい、走りだけでなく水郷筑波国定公園内にある島や橋、水面など、郷愁を感じさせる水郷の情緒を求めてフォレスターを走らせた。小春日和の元、快適なカントリーロードで郊外モードをチェック。路面は工事で出来た繋ぎ目や自然のうねりなど、変化が激しいが、ここでも高速で感じたあの足の素性の良さが伝わってくる。うねりをスッと吸収するところは、しなやかと言うありきたりの表現しか見当たらないが、フラット感が保たれ、実に気持ちいい。
総走行距離276.5km・燃費12.4km/ℓ
コーナリングでも路面を綺麗にトレースしてくれるため、うねりがあっても、姿勢は大きくは乱れず、安全運転にも寄与できる。良くしつけられた足と水平対向エンジンと相性のいい4WD、しっかりとしたボディーが織りなすフォレスターの乗り心地などを確認しながら東京~佐原の試乗を終えた。
高度な安全性能と足の良さが際だった総走行距離276.5kmの走行テスト。車両の燃費計で12.4km/ℓ。この燃費は、これまでカタログで使われてきたJC08モードより実状に近いといわれる「WLTCモード燃費」の14.0km/ℓに近く、達成率は88.5%。う~ん、アラウンド300万円(車両価格309万9600円)のSUVかぁ……コスパも悪くないし。
(取材・文・写真/佐藤篤司)