五木寛之 流されゆく日々
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連載11229回 「ボケの効用」について <4>
(昨日のつづき) 私がいろいろ教えを受けた先輩がたの中で、これは多少ボケが入ってきたな、と感じる人は、ほとんどいない。 かなり高齢のかたでも、喋ることはしっかりしていた。と、いうより、若い後輩…
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連載11228回 「ボケの効用」について <3>
(昨日のつづき) このところ新聞や雑誌を読んでいて気になるのは、活字の世界に対して、どことなく自信なげな雰囲気が行間に漂っていることだ。 メディアの栄枯盛衰は世の常である。 映画が登場して…
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連載11227回 「ボケの効用」について <2>
(昨日のつづき) 最近、週刊誌などで「ボケ防止に役立つトレーニング」などという記事を、よく見かけるようになった。 高齢化ナンバーワンのわが国では、国民のボケ防止も急務であるらしい。たとえば高齢…
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連載11226回 「ボケの効用」について <1>
<ボケる>という言い方は、なんとなく失礼な気がするところがあって、あまり気軽に口にできない感じがする。 しかし、アルツハイマー病とか、痴呆とかいうリアルな言い方は、どうも好きになれないのだ。まだし…
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連載11225回 続・先週読んだ本の中から <13>
(前回のつづき) べつに政府の「緊急事態宣言」に従順にしたがっているわけではないが、このところ完全に外出することなく、室内にこもって暮らしてきた。こうなると、本を読むか原稿を書くかしかない。食事の…
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連載11224回 続・先週読んだ本の中から <12>
(昨日のつづき) 佐藤愛子さんの最近のご本を2冊、読んだ。読みだしたら途中でとまらない。一冊は文庫本『九十歳。何がめでたい』(小学館文庫)で、もう一冊がハードカバーの『九十八歳。戦いやまず日は暮れ…
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連載11223回 続・先週読んだ本の中から <11>
(前回のつづき) 大沢在昌は不思議な作家である。大ベテランであるにもかかわらず、全然ペースが落ちない。すべての作家は、新人期、全盛期、円熟期と、3つの季節を通過してその季節を完結するのが常である。…
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連載11222回 続・先週読んだ本の中から <10>
(昨日のつづき) ジョゼフ・コンラッドの『ロード・ジム』(柴田元幸訳/河出文庫)と、『熱風団地』(大沢在昌/角川書店)をつづけて読んだ。時代もちがえばジャンルもちがう2作品だが、少しも変らぬ共通項…
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連載11221回 続・先週読んだ本の中から <9>
(昨日のつづき) 放哉にしても山頭火にしても、なぜ私たちは放浪遊行の先達に惹かれるのだろうか。 最近、また注目されだしたノマド的生き方への憧憬だろうか。それとも自由な個人生活に惹かれるのか。 …
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連載11220回 続・先週読んだ本の中から <8>
(昨日のつづき) 私ごとだが、戦後、引揚げてきてから、何年間かは縁故をたよって、あちこちで暮した。 師範学校出で、教員生活しかしらない父親は、闇ブローカーをやったり、密造酒の生産に手を出したり…
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連載11219回 続・先週読んだ本の中から <7>
(昨日のつづき) <死を生きる>と副題のついた『放哉と山頭火』にくらべて、対照的な山頭火本が『いつも隣に山頭火』(井上智重著/言視舎刊/本体2200円)の一冊だ。 徹頭徹尾、主観を押さえて客観描…
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連載11218回 続・先週読んだ本の中から <6>
(前回のつづき) 1週間(5回)で終るはずだった夏休みの読書感想文が、3分の1ほど今週に持ちこすことになってしまった。真面目に本の紹介だけしていればいいものを、つい横道にそれて雑談をしてしまう悪い…
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連載11217回 先週読んだ本の中から <5>
(昨日のつづき) 先週読んだ本の中で、最も分厚く、最も重かったのが『新・日露異色の群像30』(生活ジャーナル刊)だ。 <――文化・相互理解に尽くした人々>とサブタイトルが付いている。一体どんな人…
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連載11216回 先週読んだ本の中から <4>
(昨日のつづき) 中井正一の『日本の美 』(中公文庫)と、文遊社から出た『阿部薫2020-僕の前に誰もいなかった』を交互に読んだ。 かたや本体価格820円の文庫本。かたや本体2700円のずしり…
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連載11215回 先週読んだ本の中から <3>
(昨日のつづき) さて、今井雅晴さんの『親鸞の伝承と史実』について。 親鸞本、という言い方は失礼だが、およそわが国の仏教関係図書の中で最も数が多いのは、親鸞その人についての本ではあるまいか。 …
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連載11214回 先週読んだ本の中から <2>
(昨日のつづき) この1週間ほどのあいだに読んだ本を挙げると、おおむねこんなところだろう。 『作家は時代の神経である』(高村薫著/毎日新聞出版刊) 『日本の美』(中井正一著/中公文庫) 『新…
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連載11213回 先週読んだ本の中から <1>
〽どこまで続くヌカルミぞ である。こう書いても若い読者諸君(70歳以下)には、何の感慨もないことだろう。昭和前期の戦争中に日本国民がひとしく熱唱した戦時歌謡の一節である。はたして中国との戦争は、そ…
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連載11212回 仏の顔も三度、とは? <5>
(昨日のつづき) 東海道新幹線の岡山から新横浜までの車中で、私の車両に乗っていた客は9人だった。私以外は8人である。 緊急事態宣言は、ある程度の効果があるのだろう。どの車両も乗客は少いようだ。…
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連載11211回 仏の顔も三度、とは? <4>
(昨日のつづき) 1泊で岡山へ行ってきた。緊急事態宣言のさなかに県をまたいで移動するのは気が引けるが、2回目のワクチン接種も終えて体調も悪くないことだし、ちゃんとマスクをしていけば大丈夫だろうと、…
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連載11210回 仏の顔も三度、とは? <3>
(昨日のつづき) 空の気配はすでに秋である。 空を眺めることなどめったにないが、ステイホームとあって、窓からぼんやり雲の行方を確かめたりする時もないではない。 考えてみると、空の雲の行方を…