五木寛之 流されゆく日々
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連載10382回 海外出版界遠眼鏡 <2>
(昨日のつづき) 海外で日本の漫画が大きな市場を占めていることは、誰もが知っていることだ。しかし、ヨーロッパのそれぞれの国の漫画の世界は、それとひと味ちがった方向で動いているように見える。竹内和芳…
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連載10381回 海外出版界遠眼鏡 <1>
『出版ニュース』(2月下旬号/出版ニュース社刊)をパラパラとめくっていたら、ドイツの出版界の近況が紹介されていた。 『出版ニュース』は友人の竹内和芳さんが海外出版レポートを連載しているので、毎号興味…
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連載10380回 一生口舌の徒として <5>
(昨日のつづき) 講演というのは、自分のふだん考えていることや、知っていることを喋ることではない。 ジャズの即興演奏ではないが、タイトルだけはきまっている。しかし、話がどう展開するか、どういう…
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連載10379回 一生口舌の徒として <4>
(昨日のつづき) テレビをつけてみると、金正恩の中国訪問で大騒ぎだ。 貴乃花部屋の暴力事件につづいて、またまた「マサカ」のニュースにマスコミは右往左往だが、今を「マサカの時代」と覚悟してしまえ…
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連載10378回 一生口舌の徒として <3>
(昨日のつづき) どんな老人になりたいですか、と聞かれることがある。 「体はガタガタで寝たきり老人でも、口だけは若い者より達者な老人になりたい」 と答えると、だれもが苦笑して、 「いちばん…
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連載10377回 一生口舌の徒として <2>
(昨日のつづき) 一夜、明けて、好天である。青空がひろがるというほどではないが、暖かい日差しが降り注いでいる。ホテルの部屋から福山城が眼下に眺められる。 どうやら福山では、桜はまだらしい。横浜…
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連載10376回 一生口舌の徒として <1>
この1週間あまり、メチャ忙しかった。 なにしろ講演が4つも集中してしまったのだ。これまで五十余年のあいだに、こんなことはなかった。 3つが地方での講演、1つが東京での催しだった。 そのな…
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連載10375回 「オイハラ」とは何か? <4>
(昨日のつづき) 奈良へ日帰りでいってきた。やはり一泊すればよかったと後悔する。京都までは新幹線でスムーズに着くが、そのあと近鉄に乗りかえてからが大変だ。 特急で1時間あまり。橿原神宮前までい…
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連載10374回 「オイハラ」とは何か? <3>
(前回のつづき) オイハラ(老人ハラスメント)の一つに、過度に高齢者の世話をやく、ということがある。年をとって脚が不自由になっても、堂々とふるまいたい人はいるものだ。ヘンリー・ミラーが、飛行機のタ…
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連載10373回 「オイハラ」とは何か? <2>
(昨日のつづき) 弱者や、差異や、性差に関するハラスメントが、いま世界の話題である。お世辞のつもりが「セクハラです」と抗議されかねない時代になった。B・Bとか(古いね)、カトリーヌ・ドヌーブとかが…
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連載10372回 「オイハラ」とは何か? <1>
この冬は、ほとんど一枚の黒のタートルネックのセーターですごした。 上着は肘当てのついた茶系のブレザーである。外に出るときは、きまってそれ一着。 打ち合わせも、街へ買物にいくときも、テレビ出演…
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連載10371回 「マサカの時代」に思う <5>
(昨日のつづき) 昨夜は徹夜したものの、結局、最後の原稿ができずに朝を迎えた。今日は日経ホールで講演の予定があるので、しばし仮眠。 夕刊に目を通すと、マサカの事故の記事が目についた。日本人ノー…
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連載10370回 「マサカの時代」に思う <4>
(昨日のつづき) 午後3時に目覚めた。ゆうべ徹夜したので、まだ眠い。4時、KADOKAWAの菅原氏、蔵本氏と面談。戦後七十余年間の忘れられた名著のラインナップを検討する。出版界も大量生産大量消費だ…
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連載10369回 「マサカの時代」に思う <3>
(昨日のつづき) 私の生涯における最大のマサカは、言うまでもなく外地における敗戦体験だった。12歳のときである。 この話はいやになるほどしてきたので、ここでは書かない。ピョンヤンを脱出して、三…
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連載10368回 「マサカの時代」に思う <2>
(昨日のつづき) 毎日、えっ、と驚ろく日々の連続である。 もちろんマスコミの誇大報道もあるが、それにしても予想しなかった出来事の連発だ。 政治の世界は「一寸先は闇」と昔から言われてきた。そ…
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連載10367回 「マサカの時代」に思う <1>
東日本大震災から7年が過ぎた。いまなお7万3000人あまりの被災者が流浪している。 私は以前、デラシネという現象に関して、さまざまな外国の例を引くことが多かった。しかし、ふと足もとを見ると、デラ…
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連載10366回 情報格差ということ <5>
(昨日のつづき) 経済的格差もたしかに大問題である。しかし格差には、そのほかにもいろいろある。どんな立場の家に生まれたか。どのような両親にめぐまれたか。そして、どういった個人的資質をもって生ま…
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連載10365回 情報格差ということ <4>
(昨日のつづき) 飛行場から連日のように飛びたつ軍用機に不審を抱かなかったのは、当時の私たちの奴隷根性である。 情報というものの重要さを全く認識できていなかったのだ。情報は新聞とラジオ、そして…
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連載10364回 情報格差ということ <3>
(昨日のつづき) 下層インテリの典型であった私の父親が、現実に手に入れた情報はじつに貧弱なものだった。 貧弱というより、明かにフェイク・ニュースである。ナンセンスと言っていい。 当時、戦時…
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連載10363回 情報格差ということ <2>
(昨日のつづき) こういう事を書くと、すぐに陰謀論というレッテルをはられがちだ。 しかし歴史をふり返って見て、大きな事件の背後に、いわゆる陰謀がなかった例があるだろうか。 古代史の神話伝説…