鷹の系譜
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<61>立ち退き料に一億八千万円
〈第四章〉地上げ屋 「千代田タウン開発」――またも聞いたこともない会社だった。 高峰はその会社の名刺を前に、児玉という男と話し合っていた。古くから神保町に店を構える酒屋の店主。六十絡みの…
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<60>いま力があるのは革連協だけ
翌朝、打ち合わせは午前九時からとなった。それまでに少し時間が空いたので、海老沢は気になっていたことを解決しようと、三澤の自宅を管轄に持つ所轄に電話を入れた。 悪い予感は当たる。 地域…
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<59>大喪の礼に合わせてゲリラが?
「公安一課か?」 「公安一課です」 海老沢は警戒した。公安一課の電話番号は、一般には公開されていない。 「でかい事件がある」相手が低い声で告げる。 「どういう類いの?」 …
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<58>三澤の妻の声にかすかな不安
疲れた……直帰しても問題なかったのだが、海老沢は一人で本部へ戻った。中途半端な状況に陥ってしまい、何とも釈然としない。この件のきっかけになった三澤と、もう一度話してみようと決めた。 既に午後…
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<57>あんた、当たりどころを間違ってる
こういう時、あまりしつこく確認してはいけない。海老沢は、前田が新藤を知っているという前提で話すことにした。 「新藤さんは、今はあなたたちとも、他のセクトとも関係はなかったはずだ。運動からは完全…
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<56>別件で手を貸してほしいんだ
前田もいち早く海老沢たちに気づく。海老沢が誰か、知っているわけではないだろうが、刑事だということはすぐに分かったようだ。名乗らずとも、刑事の気配はどうしても滲み出てしまう。 海老沢は一歩前に…
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<55>前のめりになると相手が警戒する
嶋田祥子は張り切っていた。それは分かる。公安一課の女性刑事の仕事というと、極左のアジトに家宅捜索をかける際のサポートや、集会の監視がほとんどだ。女性の活動家もいるので、その対策という意味がある。普通…
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<54>記憶に残るような客ではなかった
「新藤さんが、この店を何回か利用していたことは分かっています。誰と一緒に来ていたかを知りたいんですよ」 「それは……捜査に必要なことなんですか」 「もちろんです」高峰はうなずいた。「彼がど…
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<53>夜の銀座はやたらギラギラしている
二人は会社を辞して、銀座に移動した。宮里から、新藤が接待用に使っていた店を何軒か、聞き出したのである。 夜の銀座は、やたらとギラギラしている。最近は六本木辺りに客が流れているとも聞いていたが…
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<52>接待用の店まで決まっているのか
副業禁止だったはずだ、と高峰は確認した。宮里もそれを認めたが、「実際にはコントロールしきれない」と渋々言った。 「こんな時間でも、まだ仕事をしている人がいるじゃないですか。副業する暇なんか、あ…
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<51>あいつは副業をやっていた
結局、東総不動産開発を訪れたのは、午後七時過ぎだった。既に残業に入っている時間だが、まだ多くの社員が、居残って仕事中のようだ。民間企業は厳しいものだ、とつくづく思う。 宮里は、露骨に嫌そうな…
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<50>暴力的な方法で立ち退きを?
「新藤さんは、地上げをやっていたんですか?」 「そんなにはっきりとは言いませんよ」久保田が慌てて否定する。「でも、話の端々で……そういうの、何となく分かるじゃないですか。こんな田舎に住んでいても…
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<49>東京だけ日本じゃないみたいだ
そんなに親思いの息子だったのかと、高峰は意外な思いを抱いた。偏見だとは分かっているが、金の亡者のような人間を想像していたのに。 金――というか金持ちらしい生活に執着していたのは間違いないが。…
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<48>新藤が大手から転職した理由は、金
「でも、結果的には大学時代に抜けている」 「それどころじゃない、という話でした」久保田がうなずく。「その頃も金に困ってたんですよ。親父さんからの仕送りは最小限で、バイトで何とか食いつないでいたん…
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<47>陸上を続けたら金がかかる
「高校生の頃だったかな」久保田が首を捻る。「地元でそういう事件が起きているのは分かってましたけど、あくまでテレビの中の話みたいな感じでした」 「そうですか……」 「だから、新藤が学生運動を…
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<46>あさま山荘事件の記憶は鮮明
たとえ親友の旅館であっても、金になりそうなら……不動産屋ならではの感覚かもしれない。こんな田舎でも、温泉が出る土地なら、不動産的な価値は高いのではないだろうか。自分の田舎で再開発計画を考えていたとか…
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<45>旅館を売り出す気はないかと
温泉旅館か……これは誘惑だ、と高峰は思った。どうせならここに一泊して、ゆっくりしようか。しかしそれは許されまい。今日の夜には東京へ戻って、聞き込みの成果を報告しなければならない。成果があがれば、だが…
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<44>新藤は実家に援助していた
「でも今は、ポルシェに乗って帰って来るんでしょう」 「ええ……大学の途中で、こっちに帰省しなくなって、その後ずっと、足は遠のいていたんです。それが三、四年前だったかな? 本当にいきなり帰って来て…
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<43>いきなりポルシェで乗りつけて…
小関は緊張した様子だったが、高峰の言葉に対しては軽くうなずいた。 「今、実家に行ってきたんですけど、商売は――蕎麦屋さんは今も続けているんですか」 「いや、もう仕事はしてないんですよ」 …
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<42>雪の中の聞き込みは空振り
「どうしますか?」村田が首をすくめて訊ねる。 「せっかくここまで来たんだから、手ぶらで帰るわけにはいかない」高峰は顎を撫でた。「近所の聞き込みをしてみよう。昔の友だちにでも会えれば、何か分かるか…