鷹の系譜
-
<41>ドアをノックしてみたが無反応
〈第三章〉過去から来た男 高峰たちは、群馬県の奥深く――上越新幹線の上毛高原駅からバスに十分ほど揺られて、ようやく新藤の実家に到着した。日本海側を襲う冬の寒気と雪は、関東平野までは届かないとよ…
-
<40>メモには殴り書きした住所
その日の夜、引き上げる前にトイレに寄って戻って来ると、デスクに一枚の紙が載っていた。既にデスクは片づけていたので、折り畳まれた一枚の紙片は嫌でも目立つ。隣に座る後輩刑事に聞いてみたが、「何も気がつか…
-
<39>連絡先を教えてもらおうとは図々しい
公安一課に戻り、革連協担当の中で、前田とつながっている西澤という刑事と話をした。海老沢より五歳ほど年上のベテランで、何かと秘密主義で課内でも評判が悪い。 「前田? そんな奴は知らないな」いきな…
-
<38>「過去の話」でも何となく引っかかる
海老沢としては、そのまま素直には信じられない。八田の読みが間違っていたとは思えないが、実際に組織を外れるかどうかという重要な問題に関しては、新藤も一世一代の嘘をついていた可能性がある。 「あん…
-
<37>結局、土地が一番金になる
二年生で革学同の青年部幹部になったということは、組織としては「希望の星」だったのだろう。勉強熱心で、仲間をリードするような理論家になったかもしれないし、勧誘に長けて、党勢の拡大に寄与したかもしれない…
-
<36>手帳に残っていた新藤の名前
八田は玄関脇にある応接間に通してくれた。最近は応接間のある家も少なくなったな、と海老沢は思う。家で人をもてなしたりする機会が減っているのだろう。もっとも海老沢の家では、子どもの頃からあまり来客がなか…
-
<35>引退した年寄りに何の用だ?
海老沢は、公安一課の古い名簿をひっくり返して、古参――既に退職している八田という元刑事をターゲットに定めた。公安一課で何年か一緒で顔見知りなのだが、仕事を共にしたことは一度もない。公安は極端な縦割り…
-
<34>半同棲で知らないわけがない
高峰はなおも宮里を攻め続けたが、情報はまったく出てこなかった。結局事情聴取は諦め、早めに特捜本部に戻る。捜査会議が始まる前に、村田と額を寄せ合って、今後の捜査について相談した。 「どうも効率が…
-
<33>表に出せない金が流れているのか
「新藤さんと、社内で特に親しかった人をご存じないですか」 「いや」宮里が首を捻る。「あいつはつき合いの悪い人間でね。呑み会には出てこない、昼飯も一緒に食わない……ゴルフにも行かないからな」 …
-
<32>あいつに交友なんてないでしょう
「社員が殺されたなんて、初めてですよ。取り引き先にはいい印象を与えない――お分かりでしょう?」 「あくまで被害者ですよ」 「被害者だろうが加害者だろうが関係ないんです。事件に関係していると…
-
<31>新藤の件、迷惑してるんです
二人は先程の喫茶店に戻った。短い間隔で二度目の訪問……店員が怪訝そうな表情を浮かべたが無視して、二人ともコーヒーを注文する。村田は無言で、手帳に書きこみを始めた。先程の事情聴取をまとめているのだろう…
-
<30>そんな高い車、買えるはずがない
勤め人にとって、昼飯は極めて大事である。栄養補給であると同時に、仲間との親睦や打ち合わせの時間にもなる。刑事も同じだ。昼飯を食べながら雑談をしている時に、ふいに捜査の道筋が開けたりすることは、高峰も…
-
<29>社内で話を聴いてもいいんですよ
被害者の関係者が会社員の場合、事情聴取にも気を遣う。特に、仕事絡みの事件なのかどうか分からない状態の時は、強引なやり方はご法度だ。会社が絡んだ事件となれば、刑事を大量動員して、社内で一斉に話を聴けば…
-
<28>あの億ションにポルシェはむかつく
都心部のマンションにポルシェ……気に食わないな。 捜査一課に異動して来た時、高峰は「過剰な思い入れは禁物だ」と先輩刑事から説かれた。被害者の無念を晴らそうという執念は大事だが、他には余計なこ…
-
<27>監視対象から漏れた人間は相当多い
翌日、海老沢は出勤すると直ちに係長の大森に情報を報告した。 「新しいゲリラか……嫌な感じだな」大森が顔をしかめる。「しかし、口だけということもある。今までも何度も、同じようなことはあった」 …
-
<26>“戦線”の実態は公安も掴めていない
ダミーという言葉に、海老沢は敏感に反応した。 「つまり、本当の狙いは別のところにあるわけか」 「ダミーというのは、普通はそういう意味だな」三澤が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。 「本…
-
<25>複数ヶ所から狙う「一の一」
大昔――海老沢の感覚では十五年前は大昔だ――の仲間が殺されたとなったら、セクト内がそれなりにざわつくのは想像できる。海老沢は一抹の疑念を拭えなかった。この新藤和巳という男は、やはり今でも密かに革連協…
-
<24>革連協は革命的学生同盟の生き残り
二人は少し歩いて、別のベンチに落ち着いた。 「昔って、いつの話だ? 被害者、何歳だったかな」海老沢は訊ねた。 「三十五」 「十五年ぐらい前か」 一九七四年――二十歳頃のこと…
-
<23>世間はざわついているようだな
駒沢公園は、寒い一月だというのに賑わっていた。犬を散歩させる人、スケートボードを楽しむ若者、ただ二人の時間を共有しているカップル……海老沢は指定されたベンチに腰かけ、煙草を吸いながら三澤を待った。 …
-
<22>Sは元極左の革連協メンバー
リビングルームに飛びこんで受話器を取ると、聞き慣れた声が耳に飛びこんでくる。 「休みだよな?」 「ああ、久しぶりに」 「お休みのところ申し訳ないんだけど」 「いや、構わない」…