鷹の系譜
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<21>昨秋からの自粛ムードは終わった
〈第二章〉スパイ 天皇崩御からの特別警戒体制は、一週間で解除された。その間、海老沢は公安一課に泊まりこむこと二回。日曜日に、久しぶりに休みが取れた。一日中寝ているつもりだったが、十時半に目が覚…
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<20>勤務先と恋人は人間関係の主流
特捜の刑事たちが集まり、鑑識も到着して、新藤の部屋の捜索が始まった。高峰はモヤモヤしたまま……それをすぐに村田に見抜かれた。 「何で機嫌悪いんですか?」 「金持ちが被害者だと、感情移入で…
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<19>不動産屋というのはそんなに儲かるのか
参ったな……目の前で真子が倒れた時の様子が、高峰の脳裏に焼きついたままだった。職業柄、悲嘆に暮れる被害者の関係者を何十人も見てきたが、倒れられたのは初めてだった。半同棲の内縁関係といっても、実質的に…
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<18>会社の上司が警察に相談をと
伴野真子は、制服警官に伴われ、おどおどした様子で刑事課に入って来た。分厚いウールのコートの前を閉めているのに、ひどく寒そうだ。ハンドバッグのハンドルを両手できつく握りしめていて、緊張のほどがうかがえ…
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<17>内縁関係なら家族と一緒だよ
文京西署では、刑事課の係長・里中が高峰を待ち構えていた。面識はないが、自分より明らかに年上――四十代半ばに見えたので、高峰は敬語で対応した。 「お疲れ様です……泊まり明けですか」 「ああ…
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<16>捜索願の情報を半日も放置
平成元年一月八日――朝、新聞を開いた高峰は、違和感を抱いた。もちろん、元号が変われば新聞の日付も変わるのだが、何となく準備がよ過ぎるような気がする。実はずっと前から分かっていて、密かに準備していたと…
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<15>犯人像につながる手がかりはなし
そうか、高校生の大会の決勝さえ中止になるぐらいの日なわけか。しかし、ラグビーの話をされてもな……高峰は基本的にスポーツが好きではない。運動といえば、新潟に住む伯母の家を拠点にスキーを楽しむぐらいだっ…
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<14>天皇崩御の日に開いている店はない
じりじりと時間が過ぎ、高峰は苛立ちを感じながら、現場付近での聞き込みを続けていた。今日はこのまま、できる限り聞き込みを進めろという指示が出ている。何か重要な指示があれば、ポケットベルが鳴る予定だ。何…
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<13>終戦時に特高の記録の多くが破棄
海老沢は、高校時代までは警察官になるつもりなどまったくなかった。その頃何に夢中になっていたかというとサッカーである。自分でもなかなかの腕前だと自信を持っていて、高校はわざわざサッカーの強い私立校に進…
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<12>極左の活動家は市民には縁遠い存在
昨年発生したこの事件では、JR労組の幹部が自宅で就寝中に襲われ、鈍器で滅多打ちにされて殺害された。極左の最大セクトである「革連協(かくれんきょう)」が、数日後に機関紙でこの件を取り上げ、自分たちの犯…
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<11>公安一課では女性刑事はまだ少数
自席に戻り、海老沢は何となく釈然としないまま、腕組みをして電話機を睨んだ。あまりにもむっとしていたせいか、隣席に座る若い女性刑事、嶋田祥子が遠慮がちに話しかけてくる。 「どうかしましたか? 変…
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<10>仏さんの顔だけ見てわかるのか
高峰はしつこく食い下がってきた。こういうところは、大学時代とまったく変わらない。一度気になったことがあると、こちらが音を上げるまであれこれ聞いてくるのだ。まあ、こういうしつこさは、捜査一課の刑事には…
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<9>何で公安が出てこないんだ?
「うちは関係ないぞ」海老沢は敢えて冷たく言った。 「まあ、そう言うなよ」高峰は気にする様子もない。昔からこうだった……いつの間にかこちらの懐に入りこみ、本音を吐かせてしまう。「高校までは理屈っぽ…
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<8>昭和とは何と大変な時代だったことか
公安一課の刑事たちが一斉に情報収集の電話をかけ始めたので、朝の課内は騒がしくなった。その途中、とうとう天皇崩御のニュースが入ってきて、公安一課長の音頭で、一分間の黙祷が行われた。 それまでず…
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<7>公安は去年秋からゲリラ事件を警戒
海老沢利光は、一月六日の夜から公安一課に泊まっていた。ローテーションによる泊まり勤務は、年末からずっと続いている。しかしまさか、天皇陛下崩御のタイミングで本部にいることになるとは。 公安一課…
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<6>「内ゲバ」ではないとした根拠は
捜査会議では、「何も分かっていない」ことが確認できただけだった。 一番肝心の被害者の身元に関する手がかりがない。被害者は三十代から四十代の男性。身長約百七十センチ、体重六十六キロの中肉中背だ…
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<5>「平成」という元号はピンとこない
一通り近所の聞き込みを終え、高峰たちは世田谷中央署に集まった。取り敢えず特捜本部ができ、その第一回目の捜査会議が開かれる。捜査会議は朝と夜の二回開かれるのが普通だが、事件発生直後は、全員が情報を共有…
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<4>三人組が鉄パイプを持っていた
高峰は、素早く現場を見て歩いた。既に遺体は搬送されていたし、見たからと言って状況が分かるわけではないのだが、これは捜査の基本中の基本である。 「話を聴ける人間はいるか?」最初は「乱闘」として一…
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<3>冷たい朝にパトランプの赤い光
三軒茶屋はごちゃごちゃした街だ。同じ世田谷区内の繁華街で、距離的にも近い下北沢が、「小さな新宿」という感じで若者が多く、洒落た感じなのに比べると、下町っぽい雰囲気が色濃い。高峰はあまり馴染みがないの…
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<2>間もなく自粛は解除になるだろう
妻の淑恵も警察官の娘なのだが、父親は本部の交通畑が長く、定時に出て定時に帰る生活だったという。高峰は、長く名刑事として活躍し、捜査一課の理事官にまで昇進した父の後を追うように刑事になった。刑事なら当…