小説「ゴルフ人間図鑑」 第2話 パット
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(13)背後でポトリとボールが落ちる音
彼らは、ボールをつまんで、グリーン上を能の演者のようにすり足で歩く榊原の真似をして、さんざんに笑うのだ。 久志の耳に、彼らの笑い声が聞こえる。 絶対に不正をするな。久志は、強く念じた…
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(12)最終ホール、みんなが彼の行動を注視している
8 榊原の打った第2打は見事にグリーンに向かって飛んでいく。ボールは、一旦、グリーンを捉えたものの、傾斜で転がり、右端のカラーに止まった。 「ちっ!」榊原は舌打ちをした。 「ナイス…
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(11)あの不正をまた見たいと言うんです
戦前、昭和天皇が、軍部を抑えるために軍人で軍に強い東条英機をあえて首相に選んだと聞いたことがあるが、それと同じか。合併の毒を、榊原の毒で制するというのか。 しかし、東条英機は、結果として日本…
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(10)社長は悪を無意識に実行する男
オーナーは、表情を変えずにじっと聞いていた。 「私の考えとしましては、お取引先からもクレームが来ていることを鑑みまして、榊原氏は社長には不適格なのではないかと考える次第であります」 久…
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(9)不正をするのはゴルファー失格
「グリーン上で不正をするのは、ゴルファー失格です」 久志は、思い切り言い放った。 「そんなことはしていない。ふざけたことを言うな」 榊原は、机をドンと叩いた。 「私だけが言…
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(8)ゴルフで不正を働く人との取引は…
5 久志は、このままでは会社の経営に悪い影響があると思った。いくつかの会社が、ゴルフで不正を働くような社長とは取引をしたくないと言ってきている。霧島の会社だけではない。他にもある。 …
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(7)ゴルフは上手いのにどうして
昨日、一緒にゴルフをした資材会社の奥山だ。 「大変ですね。望月さんも……」 「えっ、どういうことですか?」 「気が付いていたでしょう。榊原社長のこと……」 「えっ」 「…
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(6)9番ホールの不正を見て動揺、スコアは散々
久志は、パターを振った。打ち出されたボールは、まっすぐ転がった。久志の耳に、カンというカップインの音が聞こえる、はずだった。ところがカップ際でクルッと反転した。ボールは4分の1ほどカップを覗いている…
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(5)つまんだボールをピンそばにポトリ
榊原は、ピンの右12、13メートル辺りに止まっていたボールを躊躇なく、ひょいっとつまみ上げた。ルールではその場にマークをしなければならない。 しかし榊原はマークをしない。ボールをつまんだまま…
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(4)同伴者の見事なショットに舌打ち
霧島の耳には、榊原の悪い噂は入っていないと思われる。 プレーは今のところ順調に進んでいる。 今、9番ホール。このホールで午前のラウンドが終了する。 何事もないことに久志は肩の…
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(3)ゴルフは紳士のスポーツ スコア申告の嘘は許されない
「ナイスオン!!」 同伴プレーヤーの資材会社の社長、霧島康夫が言った。 「彩の国」で使用するパッケージなどの資材を供給してくれている会社の社長である。 「いやぁ、素晴らしいショット…
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(2)社長の悪癖に取引先から苦情
オーナーが、初対面で社長に決めたのは、榊原の爺殺し的才能の賜物かもしれない。 高校卒業後、久志は地元の公立大学に進み、そのまま地元の銀行に就職した。 榊原は、東京の有名私立大学に進み…
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(1)「俺はマラドーナだ」と自画自賛した榊原がわが社の社長に
深いため息とともに望月久志は受話器を置いた。 「また苦情ですか?」 秘書室員の木村多恵子が同情するように言った。 「ああ」 「大変ですね。でもどうしてでしょうね」 …