大宮エリーさん 青ガニの群れに「集団行動が苦手な自分」を重ね合わせ物語に
作家、脚本家、映画監督、演出家、CMクリエーターとマルチに活躍する大宮エリーさん。新著「猫のマルモ」が大人の男性も号泣すると話題になっている。7話からなる短編集で、主人公はみな不器用な動植物、そんな物語が生まれた背景を語ってくれた。
これは一昨年、沖縄の西表島のカヌークルーズに参加したときの写真です。そのころ、気持ちがとてもへこんでいて、旅に出ようと、石垣島からさらに奥の小浜島へ行きました。PUFFYの由美ちゃんが「一緒に行ってあげようか?」と声をかけてくれたのを「ひとりで大丈夫!」と断ったものの、ホテルは家族連ればかりで余計に寂しくなる始末……。
あまりに寂しくて、隣島の西表島で「マングローブの林を巡るカヌークルーズ」に参加したのに、お客さんは私ひとり……。ガイドさんと2人でマングローブ林の浅瀬に降りたときに撮ったのが、この写真です。
小学校時代はいじめられっ子だった
青ガニは、人間が近寄ると一斉に地中に潜ってしまう。ところが私がそのままジーッとしていると、1匹が浜に顔を出し、すると続けて出てきて浜を埋め尽くすほどになるんですよ。そんな青ガニを見て、「もし自分が青ガニだったら、逃げ遅れるなぁ」と思いました。私は集団行動でもたつくタイプで。
つらかったけど、でもどんくさいからこそ見える世界がある、そんな思いがきっかけになり「青ガニのサワッチ」という作品が生まれました。
小学校に上がるときに大阪から東京に引っ越し、4年になるとそういうお年頃なのか、“関西弁がヘン”と攻撃の対象になったんですよね。それからは例えば関西人の母の趣味でフリフリの服を着て学校に行くと、「やだぁ。お姫さまみたいだね」と女子にいじられたり、集団無視にあったり。
それで試しに、「そやねん、姫なんやけど今日は冠、忘れてしまって……」と、いじめっ子の言葉をいったん受け入れてボケてみたんです。すると、私に対する評価が『ひょうきんな子』に。それがきっかけで徐々にいじめられなくなっていきました。同時に、人の評価ってあいまいで一変するという、人間の怖さと現実を知りました。
会社員時代は落ちこぼれだった
就職で33社落ちて、やっと受かった広告代理店。周りのクリエーターは広告賞をバンバンとってステータスを上げていましたが、私は全然ダメ。
クリエーティブに入ったのは幸運だけど、担当クライアントが超大手すぎて、求められるものはややコンサバ、制限も多くて。
それで自由な仕事もできたらと、社内でご用聞きをし、パン屋のチラシなどフリースタイルで任せてもらえるお仕事を空いた時間にやらせていただきました。それが次の仕事につながっていったんです。コツコツ頑張っていれば、誰かが見てるものですねぇ。
ただ、会社員としては失格で。行き先を書かずに出かけてしまったり、事前にできず帰ってから出張申請すると、経理からも部長からも怒られ、「もうこれ以上会社に迷惑かけられない」と思い、何の準備もせず30歳のときに突然、会社を辞めました。
回り道が多い分「光」になれる
さて生活に困ったな、という時に連載の話をいただいて、作家活動が始まりました。でも、いまだ作品に自信がなく苦しいです。
「働く人が元気になる、泣ける話を書いて欲しい」とリクエストをいただいて、誰もが抱く悩みに答えるような小説が書けないかなと思いました。たとえば、コンプレックスが強みになる、変わらないと思ってたことが、あるきっかけで一転する、とか。“才能がないって思ったけど、才能ってこういうことだった”みたいな話だとか。本のタイトルにもなった「猫のマルモ」はそういう話です。
回り道が多く、たくさんつまずいて私が得た気づきが、誰かがつまずいたときの勇気(光)になれればと思っています。
▽大宮エリー(大宮エリー)1975年、大阪府生まれ。東京大学を卒業後、電通に入社。30歳のときにフリーに。作家、脚本家、映画監督、演出家、CM制作などマルチに活躍。今春「猫のマルモ」(小学館)を上梓。