小説「ゴルフ人間図鑑」 第4話 ハラスメント
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(11)私を疑っておられるのですね
「そうなりました」 「死んでよかったな」 「その通りです」 「近藤さんにも大野を殺す動機が十二分にあるってことだな」 野村が言った。 「……そういうことになりますね」 …
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(10)あれは弁護士を通じた脅迫状
彼ら全員が野村の話に聞き耳を立てている。 「あなたは大野に、投資話を持ち掛けた。なんでも年利で15%から20%って話だ。このゼロ金利の時代にそんなうまい話はないはずだが、ケチで欲の皮の突っ張っ…
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(9)全員がゴル・ハラの被害者だった
「まるで私たちがみんなで相談してアリバイを作っているみたいじゃないですか?」 野村が、同意を求めるように全員を見渡した。 「そうじゃないんですか? 例えば、ラインのグループみたいなものを…
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(8)全員が売店に会している不思議
「本当にゲス野郎ですよ。恵子から相談を受けた私は、大野を呼び出し、恵子に近づくなと言ったのです。その時、ちょっと胸を拳で突いたのは私の失敗でした」 岸川の表情が憂鬱になった。 「失敗とは…
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(7)キャディをとことんいじめる
私の問いかけに、恵子は表情を強張らせ、目を瞠った。 「私……」 恵子は口を開こうとした。 「恵子、いいよ、何も言わなくても」 突然、恵子を遮ったのは、コース課の岸川だ。 …
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(6)あまりの破廉恥さに言葉を失う
洋子は、豊満な乳房が着衣の上からも想像できる。大野が、時折、私に「いい女なんだ」と言っていたのを思い出した。 「私は、当然、拒否しました。でもそれからもなんども誘いを受けて……。そんな嫌な思い…
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(5)口癖は「お前ら、いつでもクビだ!」
大野は、怒りに火がつくと、抑えることができなかった。 「最初、大野さんを日ノ本テレビからスカウトしてきた時は、温厚でいい人だと思ったのです。ところが視聴率が良くなってくると、傲慢増長して、ディ…
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(4)本音を言えば、私が殺したかった
野村は憎々しげに顔を歪めた。 「大野さんは私を怒鳴り、脅し『お前は、誰のお陰でメシが食えていると思ってんだ。俺が、一声、言ったら、お前の会社なんか局に出入り禁止だぞ。そのことを思えば、こんなパ…
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(3)凶器に使われたパターは私のもの
岸川は、グリーンやコースを整備するコース課に勤務している。年齢は、30歳半ばだ。元体操選手だったらしく、小柄だが引き締まっている。彼なら、トイレの天井との間の隙間から抜け出ることができるに違いない。…
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(2)人生には「まさか」がつきものだが…
私は、なぜか笑いが洩れた。 犯人は、凶器のパターから血痕や指紋を拭い去ると、売店入り口に立てかけ、その場から消えた。 これが事件の顛末である。まさか大野も、トイレの中で死ぬとは、夢に…
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(1)犯行現場は6番ホールの売店
1 1年前の5月10日、フリーキャスターの大野誠一、60歳が殺害された。 場所は、埼玉県の名門ゴルフ場、霞会カントリークラブの売店の男子トイレの中である。凶器は、彼のパターである。後頭…