五木寛之 流されゆく日々
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連載11752回 古い万年筆を修理に <1>
先日、長年使っていた万年筆の調子が悪くなってきたので、丸善の文房具売場へもっていって修理してもらった。 この何十年かずっと2本の万年筆を使って原稿を書いてきた。特に高価でもない国産の万年筆である…
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連載11751回 ズボンに歴史あり <4>
(前回のつづき) ズボンという。トラウザスという。パンツという。スラックスという。それぞれ違った言葉だろうが、要はズボンだ。 そもそもズボンという言葉はどこからきたのだろうか。敵性言語が禁止さ…
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連載11750回 ズボンに歴史あり <3>
(昨日のつづき) 再び四、五十年前のズボンをなぜ今も愛用しているかについて書く。 まず、はき心地がいいのだ。どこがどう良いかは、うまく説明できないが、とにかくはいていて気持ちがいいのである。 …
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連載11749回 ズボンに歴史あり <2>
(昨日のつづき) きょうはNHKのスタジオで、WBCの日本チームの監督をつとめた栗山英樹さんと対談をした。 栗山さんは海千山千の強者をひきいて見事に優勝した、新しいタイプの監督である。濃紺のス…
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連載11748回 ズボンに歴史あり <1>
つい先頃まで猛暑とか騒いでいたと思ったら、たちまちコートを着る季節になった。シワだらけの古い服を引っぱりだして、ブラシを当てて着る。 いつ頃から使っているコートだろうか。たぶん、30年以上はたっ…
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連載11747回 口舌の徒として
毎年そうだが11月になると、なんとなく万事、あわただしい気配がただよってくる。 出版界だけでなく、どちらさんもすでに年末進行の切迫感に追われているらしい。 今週から来週にかけて、雑誌の編集者…
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連載11746回 歌はどこへいったか <4>
(昨日のつづき) 前の大戦中、私たち国民はさまざまな歌に背中を押されて戦争遂行の意欲を燃やした。歌に励まされて、一死国に身命を捧げようと固く決意したのである。 その決意は決して一時の感情ではな…
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連載11745回 歌はどこへいったか <3>
(昨日のつづき) いまでも歌は盛大にうたわれているじゃないか、と言う人がいる。たしかに街のあちこちにカラオケの店があり、多くの人々が声を張りあげて歌っている。 若い世代はもちろんのこと、年輩者…
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連載11744回 歌はどこへいったか <2>
(昨日のつづき) 1952年の5月、私が上京して大学生となった頃、朝鮮戦争はまだ続いていた。休戦したのは翌年である。 5月1日に皇居前広場で<血のメーデー事件>と呼ばれる事件がおきた。日比谷通…
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連載11743回 歌はどこへいったか <1>
私が学生の頃、というのは1950年代前半の頃のことだ。 大学の構内でも、その他の場所でも、仲間が3人集ると、よく歌をうたったものだった。 当時は「うたごえ運動」というものが流行して、歌をうた…
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連載11742回 野球の「アレ」「これ」 <4>
(昨日のつづき) 大リーグの野球中継がいつでも観られるようになってから感じることの一つは、わが国のプロ野球と、どこかが微妙にちがう、ということだ。 そのちがいを的確に表現するのはむずかしい。た…
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連載11741回 野球の「アレ」「これ」 <3>
(昨日のつづき) いま話題のベストセラー『言語の本質』によれば、「言語の本質的特徴」として、言葉は「意図をもって発話され、発話は受け取り手によって解釈される」とある。 代名詞としての「アレ」は…
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連載11740回 野球の「アレ」「これ」 <2>
(昨日のつづき) 38年ぶりの日本一とあって、大阪の過熱ぶりは大変なものらしい。 道頓堀川にアレしたファンが38人もいたそうだ。なかには一人で何回もアレした猛者もいたという。その心情はわからな…
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連載11739回 野球の「アレ」「これ」 <1>
今年はWBCの劇的な優勝、阪神タイガースの38年ぶりの「アレ」と続いて、最近やや沈滞気味のプロ球界に、カンフル注射を打ったような活気がよみがえったシーズンだった。 サッカー、ラグビー、バレー、バ…
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連載11738回 「今週読んだ本の中から」 <5>
(前回のつづき) この本の凄さは、本文の後につけられた密度の濃い厖大な「注」の部分にもある。 「注」といえば内容を補足する索引のようなものだと思っていたが、『ジャズピアノ』の注はそんなものではな…
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連載11737回 「今週読んだ本の中から」 <4>
(昨日のつづき) 私は『ジャズピアノ』の上巻だけを走り読みして、過剰なアルコールを摂取したかのような酩酊状態におちいった。 モラスキー氏の文章は解説ではない。読む人を酔わせる純度の高い文章によ…
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連載11736回 「今週読んだ本の中から」 <3>
(昨日のつづき) この本はまだ上巻が出ただけである。それでも、一読して何かを書かずにはいれない衝撃を受けたのだ。 おそらく下巻が発売されたあかつきには、しかるべき専門家の書評が連続するだろう。…
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連載11735回 「今週読んだ本の中から」 <2>
(昨日のつづき) この本が私にとって衝撃的だったのは、これまで数多く刊行されてきた、いわゆる<ジャズ入門>や<ジャズ評論>とは全くちがう新しい性格の本だったからだ。 オビの文句には「最新の研究…
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連載11734回 「今週読んだ本の中から」 <1>
この本をもし私が若い頃に読んでいたなら、決してジャズ小説など書かなかっただろう。そのかわり、熱烈なジャズファンとなり、作家ではなく、ささやかなジャズの店の経営者をめざしたかもしれない。 私はジャ…
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連載11733回 五木流養生の実技 <10>
(昨日のつづき) きょうは午後からNHKのスタジオで『ラジオ深夜便』の録音。 思えばはじめてラジオで喋ったときから、すでに60年以上が経過している。<ラジオ深夜便>も、もうこれでどれくらいたつ…