熟読乱読 世相斬り
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【絶対矛盾に癒される】ゴルゴ13というキャラクターの創造は20世紀の偉業だ
さいとう・たかを氏が世を去られた。漫画における「劇画」表現を確立した立役者のひとりであり、また映画のように漫画を創る方法論、すなわち作品すべてについて、内容のリサーチや脚本等々の骨組みから実際の作画…
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【魔】甘利幹事長と妖怪「金小僧」と手塚ワールド
老眼やかすみ目といった目の不調にはもう馴れっこなのだが、これが幻覚幻視となるとおだやかではない。先日、自民党の新幹事長となった甘利明氏が記者会見している様子を眺めていたら、突然甘利氏の顔が妖怪〈金小…
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【憲法というフィクション】国民は政治家にいつ権力を信託したのか
現行憲法、すなわち「日本国憲法」に対しては、改憲派を中心にさまざま批判がなされている。第九条の不備を論じたり、アメリカに押しつけられたものだと難じたりといろいろだが、左派右派問わず割合広く共有されて…
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【民権】学術的だけどドラマティック「五日市憲法」を著した色川門下生
歴史学者・色川大吉氏が、今月の初めに他界された。かつて色川氏は、私が奉職する東京経済大学を代表する名物教授だった。丹念なフィールドワークによって、明治期における自由民権運動の歴史を掘り起こした民衆思…
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【不安と信頼】何もわからずもがく著者と政治家が共に考え成長する
1年ちょっと前に、この欄で「なぜ君は総理大臣になれないのか」というドキュメンタリー映画を取り上げたことがある。現在は立憲民主党に所属する衆議院議員・小川淳也氏の政治家人生を、その初出馬(2003年)…
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【情熱・責任感・判断力】ヴェーバーの「遺言」の書には胸打たれる箇所がある
マックス・ヴェーバーの「職業としての政治」の翻訳をはじめて読んだのは、たしか高校2年の時だ。政治経済の授業の課題だった気がするが、もちろん、ちんぷんかんぷん。その時かろうじて印象に残ったのは、現行の…
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【説話と創作】芥川が今昔物語を題材に小説を書いた理由に思いを馳せる
「今昔物語集」にまつわる話題をもう少し。前回「今昔」の説明をするのに、たぶん一番わかりやすいだろうと思い、芥川龍之介の作品との関連を持ちだした。しかし、よく考えてみると、日本の近代文学史上もっとも有名…
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【今は昔】週刊文春が二百年後に説話になればこんな感じなのかもしれない
今回は、申し訳ないが手前味噌。今夏上梓した「今昔物語集」の翻訳をご紹介したい。 「今昔」というと、読書好きの方であれば、きっと芥川龍之介の短篇を思いだされるのではないだろうか。「羅生門」「鼻」…
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【昭和と令和】水木しげるさんの「昭和史」にはなんともいえない“現在感”
水木しげるといえば妖怪漫画のエベレスト、すなわち世界最高峰の巨匠である。と同時に、「本当の戦争まんがは水木サンにしか描けません」、と御みずからおっしゃるように、戦記漫画の第一人者でもある。自身の壮絶…
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【「怯え」は安全弁】周囲から恨みや妬みを買って「モノノケ」に悩んでいた藤原道長
平安期における藤原氏全盛の立役者といえば、藤原道長である。「この世をば我が世とぞ思ふ」彼が、しかし、〈モノノケ〉に悩まされていたと聞けば、少々意外に思われるかもしれない。 「もののけの日本史」…
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【「もてなし」の心】食事で喜ぶ顔が見たいという無償の善意にあふれる旅行記
昨年このコラムでご紹介した斎藤茂太賞。旅にかかわるすぐれた著作を顕彰する賞で、すでに5回の受賞作を数える。そして、第6回(新参選考委員の私としては、2回目)にあたる選考会が、緊急事態宣言の合間をぬっ…
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【エープリルフール】大谷を超える選手は小説の中に“存在”した
今季の大谷翔平選手の活躍ぶりは、ほんとうにスゴイ。鬱積するさまざまな思いを、スカッとかっ飛ばしてくれるようだ。 投手で4勝をあげつつ、シーズン折り返し地点でホームランは両リーグトップの33本…
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【拝金主義】経産省の詐欺事件で想起した光クラブ事件と「敗戦」
先日、経産省の若手キャリア官僚2人が、コロナ対策の「家賃支援給付金」を詐取した容疑で逮捕された。ひとりは司法試験にも合格していたというから法律にはくわしかったろうに、ずいぶんあっさりボロが出たもので…
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【シニカル】国の狂騒を目の当たりにした時、モームのスパイ小説が身に染みる
はじめて原文で読んだ外国小説は、サマセット・モームの作品だった。高校の英語副読本がモームの短篇集だったからである。どういう理由かわからないが、1970年代から80年代にかけて、モーム作品を高校の副読…
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【ナンセンス】権力者の言葉を崩壊する行為に私たちができること
「言葉から魂を抜く」政策が、いよいよ最終局面を迎えつつあるようだ。前首相は、オリンピック招致の際、福島第一原発に関して「状況は統御されています」と見得を切って「統御」という言葉を台なしにした。そしてそ…
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【モダン語と近代】新しい言葉から知る日本語の包容力と時代の変遷
例によって浅学のご報告。言葉を扱う仕事をしていながら、つい最近まで「モダン語」なるカテゴリーを知らずにいた。流行語の範疇に入るものではあるが、時代相としては日本の「近代」、それも明治の終末期から昭和…
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【アナーキー】世の中に毒づき、「何もかも壊してみてえ」叫ぶ生への衝動
葉山嘉樹という作家を知ったのは大学受験で浪人していた頃だから、40年以上昔の話だ。角川文庫が出していた全5巻「新青年傑作選集」の「怪奇編」に、葉山の短篇「死屍を食う男」が収められていたのを読んだので…
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【学術の力】サンゴで学ぶ生態系サービスという経済価値
学生に対しては、「レポートを書く際、ウィキペディアの記述に頼りきったりするのは禁物。専門家を謳う人の発言や記述も、正しいとは限らないから要注意」などと偉そうに注意したりするが、浅はかな性格なのでそも…
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【好感度】松坂桃李主演のNHKドラマに「健全な悪意」
テレビ視聴は時間を食うわりに、見たあとむなしい気分になることが多い。だが、たまに見るともなく見て、連続ドラマにはまってしまったりする場合(昨年放映した大河ドラマの「麒麟がくる」などがそれ)もある。こ…
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【原作】小説「スタンド・バイ・ミー」は切なさより苦み
先週に続いて「死体」がらみをもう少し。スティーヴン・キングといえば「ホラーの帝王」と称される作家で、読者の背筋を凍らせる手腕はピカ一である。だが、時折しみじみする小説も書いていて、「The Body…