熟読乱読 世相斬り
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【歌詞と高度成長】プロに徹した阿久悠「作詞入門」に秘められた反語を読み解く
毎年師走を迎えると、いわゆる懐メロ番組に目と耳が吸い寄せられやすくなる。今年は10月に筒美京平氏が亡くなられたこともあり、その傾向にいっそう拍車がかかった。このところ、筒美さんの代表作のひとつ「また…
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【名人】日本文学に影響与えた円朝を描く“芸道小説”の魅力
三遊亭円朝といえば、幕末から明治にかけて活躍した近代落語の祖とも言うべき名人噺家である。前回にもちょっと触れた、落語の速記本由来の円朝作品、たとえば「牡丹燈籠」や「真景累ケ淵」などが現在岩波文庫に収…
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【毎度ばかばかしい】早大名物教授が綴った落語のすべてに沁み沁みする
講演をすると、時折、聴衆の方に「なんだか落語を聞いているようでした」などとお声をかけていただくことがある。マクラを振ってから本題に入って最後はサゲる、なんてことはした覚えはないので、たぶんへらへらし…
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【職人かたぎ】優勢の“保守”に突きつけたい「頑固気質」
「職人わざ」とか「職人かたぎ」といった言葉を耳にすると、この言い回しが持つ「手堅さ」とか「隙のなさ」、「実用的な美しさ」、さらには「頑固」といった、自分とは縁遠いイメージに憧れの感情がこみあげてくる。…
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【母語と母国語】「最後の授業」が教科書から消えたワケ
前々回、前回と、インディアンやアイヌにまつわる作品を取り上げ、同化政策云々といった事柄にも触れたせいか、ある短篇小説が脳裏から離れなくなってしまった。それは、アルフォンス・ドーデの「最後の授業」。普…
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【カムイの風】砂澤ビッキの評伝は大陸を横断する文化史
前回の稿で、アメリカの先住民を「はるか古代に海を渡ってかの地にたどりついた」人々、と私は記した。これは、ユーラシア大陸からベーリング海峡を渡って来た、と単純に思って書いたのだが、考えたら多くのモンゴ…
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【風の川】BLMだけにあらず…米国が抱える歴史の骨がらみ
ミネソタ州の警察官によるジョージ・フロイドさん暴行致死事件によって、2013年以来何度となく火の手があがってきた「ブラック・ライブズ・マター」運動は、アフリカンアメリカンのみならず多くの白人も参加す…
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【せやろがい!】分断を煽らず問題に切り込み叫ぶ真っ当さ
赤いTシャツに赤いふんどし姿で、沖縄の美しい海を背景に時事問題を早口で論評する。だいたい数分程度のその動画は、決まって「せやろがい!」と叫びつつその赤フン氏が海の中に飛び込んで終わる。そんな「せやろ…
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【言葉の物語】ことばを巡り窒息しそうな肺に清冽な酸素
子供向けの作品なのに、大人になってからも折にふれて読み返す。本好きなら、そういう書物をきっと持っているにちがいない。私の場合、詩人で小説家の三木卓さんが半世紀以上前に書いたジュブナイル小説「星のカン…
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【国家の運命と言葉】国運を左右する国民が使っている言葉
近代日本語についての本を書き下ろす約束をしているため、このところ関連する学術書や日本語論を読み返している。小説家の丸谷才一さんも日本語に関する該博な書物を多く発表されていて、なかでも「ゴシップ的日本…
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【性別】女と男の深淵にもウイルスが関わっている不可思議
ハシビロコウという鳥を初めて見たのは、伊豆シャボテン公園。もうかれこれ四半世紀前のことだ。灰色でくちばしと頭が巨大な、からだ自体も小学3年生ほどもあろうかというこの鳥が、草むらに凝然とたたずんでいた…
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【主権者は誰?】古典で読み解くカン違い政治家の危なさ
この稿が日刊ゲンダイに載るのは、自民党の次の総裁が選出される日である。きっと、菅官房長官が次の総裁=首相に「すべり上がる」のだろう。現状そういう仕組みである以上、私ごときがここで不平を言っても「ごま…
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【知の宴】異時空の知性で日本人を室町時代から解き明かす
ここ10年ほど、いい対談本に出会わないなあ、と嘆いていたのだが、最近スゴイ逸品を見つけた。「世界の辺境とハードボイルド室町時代」というのが、その本のタイトル。題名こそ村上春樹の小説のおふざけ(?)パ…
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【型破り】伝承の幽霊、妖怪話から中国の国柄と文化を知る
昨年梅原猛さんが亡くなった時にも思ったことだが、型破りな文科系の学者さんがだんだん減ってきている、という印象がある。単に私の思い込みに過ぎないのかもしれないが、なんとなくさみしい感じがする。そんなこ…
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【機械の進化論】AIによる人間支配を150年前に予言した書
つい先日、中学・高校の同級生で英文学者の武藤浩史氏から本が届いた。彼は、D・H・ロレンスをはじめとするイギリス近現代文学の研究者なのだが、研究成果をもとにビートルズの人気の根源を解析したかと思えば、…
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【疫病と神頼み】疫病撃退、神仏祈願の歴史を読み今を見る
コロナ禍でアマビエなる妖怪がリバイバルした。疫病退散の通力があるとかで、護符めいたイラストなどが人気を集めている。しかし、アマビエとはまた妙な名前だなあ、と思っていたら、これがアマビコの誤記(コとヱ…
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【続・スパイと人生】「死後に国家に奉仕した男」の物語
先週「007」シリーズを取り上げたら、「スパイ愛」に火がついてしまった。で、今週もそちら方面の話題。 筑摩書房が半世紀ほど前に手がけたノンフィクションの素晴らしいシリーズの中で、私が馴染んで…
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【スパイと人生】本物の情報部員だった作者の人生が香る
先日、「007」ことジェームズ・ボンドの自宅が判明、というニュースが報じられた。数年前に「007」シリーズの新作を依頼され、“Solo”という作品を書いたイギリス人作家が「発見」したのだそうだ。まあ…
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【もうひとつの人生】“Go To”混乱の中もう一度旅を考える
今年から、日本旅行作家協会が主催する「斎藤茂太賞」の選考委員をお引き受けした。文学賞の選考をするのは実に10年ぶりくらいなのだが、この賞が旅行記を対象にしていることもあって、比較的気楽な感覚でお受け…
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【中國の煩悩】パール・バック「大地」で中国が見えてくる
1年くらい前、このコラムで中国の「ワケのわからなさ」について書いたのだが、1年たったらさらに一層ワケがわからないというありさまになった。香港に施行される「国家安全維持法」は、こうやって「悪口」を記す…