ラストエンペラー
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(100)EV市場ではトミタの優位性はない
沈黙する一同に向かって、凛は続けた。 「未完成のエンジンを完成させるとなると、かなりの時間と費用を要します。世界の自動車市場が、早晩EVに変わろうかという時に、自社開発に拘り、時間と費用を費や…
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(99)優れたアイデアを拾い上げていく
〈8〉 これまでチーフエンジニアが新型車のコンセプトを決めてきたのがトミタの開発手法だ。 各チームのリーダー全員が、アイデアを出し合いながらコンセプトを固めるというガルバルディの手法に…
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(98)事実上トミタの傘下に入る
ルイスは頷くと続けた。 「パートナーシップを結んだ後も、フラッグシップとなるEVの最高級車種は、ここミラノで開発し、製造を行うことだ。ガルバルディの伝統を守り、従業員の雇用を維持し、職人の技を…
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(97)高級車市場に一層力を注ぐ
「ガソリン車市場では、日本や欧米企業の後塵を拝してきたが、EVとなると状況が一変するんだよ。部品、資材、人件費が圧倒的に安い上に、政府が命令すれば、どうにでもできる国だからね。価格競争となれば、他国の…
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(96)資金を捻出する余裕はない
その件については、既に村雨から聞かされていた。 ルイスは、たったいま「ガルバルディの社員でもある」といった凛の言葉を否定しなかったがそれは違う。コラボとはいえ、トミタの組織に身を置く限り、相…
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(95)一瞬の間の後、盛大な拍手が
「まして、ワールドクラスの高級車なんて、トミタは手がけたことがないんだよ」 戸倉はさらに続ける。 「だから社長は、このプロジェクトのマネージャーに篠宮さんを据えたんだ。だったら、トミタの…
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(94)チャンスに巡り合った幸運
「もちろん、トミタのように独自にノウハウを確立した企業もあるでしょうが、ガルバルディは二代目の辺りからこのやり方で、新型車の開発を進めてきたと聞きました」 凛の言葉に、すかさず反応したのは、ま…
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(93)エンペラーに対する夢を聞きたい
「もちろんありますよ」 当たり前だといわんばかりに、荻原はこたえる。 「概念設計というのは、皆さんがどんな車を造りたいのか。その思い……というか夢を纏め、書面にして共有するものなんです。…
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(92)精鋭のチームリーダーが一堂に
壇はいう。 「評価が定まるまでには、応分の時間がかかるでしょうし、アメリカのトップメーカーが十年かかったといっても、黎明期のものですからね。総販売台数はまだそれほど多くはありませんが、EVは韓…
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(91)今のネット社会をつくったもの
「一つは、世間を熱狂させるようなビジネスがまだ現れていないこと。もう一つは、専用のゴーグルがないとメタバースの仮想空間に入れないからでしょうね」 なるほど壇の例えは分かりやすい。 「まだ…
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(90)VRで立体的に美術鑑賞
「篠宮さんは、知らなかったようだけど、海外の自動車メーカーの中には、既にこの技術を使って、試乗体験をさせているところがあったよね」 村雨が問うと、 「ええ、まだそれほど多くはありませんが…
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(89)メタバース上で先行予約
もちろん、その際には大量の失業者が生ずることになるのだが、企業において、人件費は最大の固定費だ。それを劇的に減らせるとなれば、経営サイドにはとてつもない魅力と映るだろう。 「それと、もう一つ、…
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(88)メタバースを使ったらどうかしら
内装をユーザーが自由に決められることをオートクチュールに例えたが、デザイナーが顧客の意向を伺いながら、デザインや生地を提示し、両者間で合意を見たところで服の制作がはじまるのだ。 まさか、カタ…
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(87)高級車ガルバルディにトミタの技術
「分かった。そうさせてもらうわ」 クスリと笑うひなただったが、一転して真顔になると、「ところで内装はガルバルディも並行してデザイン開発を進めるのよね」 話題を転じてきた。 「正直…
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(86)寒暖差に耐えうる伝統工芸技術を
「これ、前にお話しした、内装に使えそうな日本の伝統工芸技術をピックアップしたリストです。尾館さんは専門家だから、これ以外にも検討に値するというものがあれば、幾らでも付け加えていただいて構いませんので……
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(85)自動運転でユーザーが望むもの
「上から下へ?」 戸倉は怪訝な表情を浮かべる。 「いまはEVの黎明期といえる時代ですが、早晩爆発的に普及していくことは間違いないんです。そして次に来るのは完全自動運転技術の実用化です」 …
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(84)中国には太刀打ちできない
村雨は続けた。 「正直いって、製造コストの点では中国製のEVには適いません。バッテリー製造に不可欠な希少金属は中国に押さえられていますし、人件費もまだまだ安いですしね。それに、バッテリーを開発…
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(83)安価なEVが日本でも販売に
「なるほど……。ガルバルディ単独では、EV市場での生き残りは難しいということになりますね」 納得した様子で頷く戸倉に、 「それは、うちだって同じなんです」 村雨はきっぱりといい放…
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(82)エンジン音が完全になくなる
そこで村雨は、戸倉の言葉を遮り、 「いいでしょう。検討する価値はあると申し上げた理由をお話ししますが、その前に、一つお訊ねしたいことがあります」 そう前置きすると続けて問うた。 …
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(81)相当な反発を受けたらしい
「どうして、その話を?」 そう問うた村雨に、 「では、本当のことなんですか?」 戸倉は念を押すように問い返してきた。 「篠宮さんが話すべきことだし、いずれ話があるでしょうか…