ラストエンペラー
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(120)佐村が繋いだ縁がここに
その言葉を聞いて、凛はかつて佐村と一緒に訪ねたナパ・オークションの光景を思い出した。 カリフォルニアワインの一大産地ナパでは、一年に一度『ナパ・オークション』と銘打ったフェスティバルが開催さ…
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(119)一眼見た直後から購入者が
「では、只今よりエンペラーの内装シミュレーションを行います」 ステージに現れた、ヘッドセットを装着した若い男性社員が告げると、画面が切り替わり、「まず、シートの柄でございますが──」デモを開始…
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(118)本番はこれからですよ
「おっしゃる通りだと思います……」 同意した凛だったが、彼らの期待にこたえられるかどうかは、新たにはじまるプロジェクトの結果次第だ。 「でも本番は、これからですよ」 凛は決意を新…
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(117)フラッシュの閃光で光の洪水
歓声、溜息、そして感動のあまりか息を呑む気配が伝わってくる。 実際、日々エンペラーを見続けてきた凛でさえそうなのだ。 演出の効果があるにせよ、見事なまでの光沢は、まるで車体がオーラに…
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(116)いよいよ新型エンペラーを披露
「この新型エンペラーは、トミタとイタリアのガルバルディが共同で開発した初の新型車にして、最後のガソリンエンジン車です。創業以来一貫してワールドクラスの高級車を造り続けてきたガルバルディ、そしてトミタの…
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(115)カーテンの背後に2台のエンペラー
「もちろんです」 壇は即座に快諾すると、「ただ、新ブランドを立ち上げるに当たって、エンペラーの流れを汲む高級EVのラインナップは四車種揃えたいのです。篠宮さんには、新ブランドの総開発責任者とし…
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(114)力を尽くして新たな任務に
「EVの時代にガルバルディが生き残るには、トミタとパートナーシップを結ぶ以外にないこと、それが傘下に入ることを意味することも重々承知しているようでしたので……。というより、むしろ傘下に入ることを望んで…
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(113)ルイスは凛の意思を尊重すると
「社長はこの一年半、そりゃあ大変な思いをなさったと思いますよ。エンペラーが期待通りの成果を上げられなければ、EVの事業計画だって見直さなければならなくなるんです。ならばその時、どこに活路を見いだせばい…
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(112)社長ってのは孤独なもんなんだ
こたえに躊躇した凛に向かって村雨はいう。 「どうだろう、篠宮さん。受けてはくれないかね。壇君と一緒に、トミタの新しい道を切り拓いてもらえないだろうか」 壇と一緒にってどういうことだ? …
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(111)EVになろうと車は移動手段
「中国では既に完全自動運転のタクシーが運行されているのは知っているよね」 「ええ、まだ台数も然程多くありませんし、都市も限られていると聞きますが……」 「おそらくテストを繰り返しても、最初…
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(110)私がEVの開発リーダーに?
トミタは既に製造車種を全てEVに切り替えることを決定したが、日本の同業他社の中には、当面の間HV(ハイブリッド)、PHV(プラグイン・ハイブリッド)の製造を継続する方針を打ち出したメーカーもある。 …
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(109)京友禅を使った革のシート
「技術者冥利に尽きるといえば、今回のプロジェクトに参加して下さった伝統工芸に従事する方々の反応は?」 凛に向かって、村雨が問うてきた。 「もちろん、皆さん、大変な期待を寄せています。受注…
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(108)テストコースの真正面に富士山
〈2〉 加速時にエンジン音が高くなるのは、ガソリンエンジン車ならば当然なのだが、巡航モードに入り回転数が安定すると、静謐性が際立つようになる。 四人を乗せたエンペラーは、研究開発センタ…
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(107)EVと錯覚するレベルの静かさ
「なんか、EVに乗っているのかと錯覚しそうになるけど、ガルバルディって、こんなに静かなの?」 そう訊ねる壇に向かって、 「この静謐さは、トミタの技術があればこそ。プロジェクトに参加したO…
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(106)後部席の素晴らしい座り心地
凛の言葉をすかさず戸倉が継いだ。 「いかがなさいますか? ご自身で運転なさってみますか? それとも後部座席に?」 「オーナーは滅多に運転しないだろうからね。後ろに座らせてもらおうか」 …
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(105)お望みなら京友禅でシートを
「ってことは、新型エンペラーは完全受注生産だから、シートの柄はオプションの中から自由に選ぶことができるってわけだが、一体図柄はどれほどあるものなのかな」 壇の質問に、尾館は少し困惑した表情を浮…
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(104)内装は日本の伝統技術の終結
「外観も素晴らしくいいじゃないか」 村雨は、腕組みをしながら車体に見入る。「ガルバルディらしさを残すところもあるが、今までのものとはちょっと違うね」 「これも、トミタとガルバルディのデザ…
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(103)感嘆の声が二人同時に漏れる
瞬間、車との間に空気が入り、布がふわりと持ち上がると、新型エンペラーの姿が現れた。 「おお……」 溜息とも、感嘆ともつかぬ声を二人は同時に漏らす。 車体の色は一見したところ黒な…
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(102)最終試作車がついに完成
◇終章◇ 〈1〉 プロジェクトが本格的に動き始めてから一年半。 新型エンペラーの開発は順調に進み、最終試作車がついに完成した。 村雨と壇が富士の研究開発センターを訪ね…
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(101)苦し紛れの反論にピシャリ
凛はさらに続けた。 「中国にとっては、EV市場を制することで、自国の柱となる新たな産業を手にする、またとないチャンスの到来なのです。事実、既にEVを含む新エネルギー車への補助金政策を打ち出し、…