生誕100年 池波正太郎の街を歩こう
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墨田高札十六番「弥勒寺門前 茶屋 笹や」の巻 江戸の経済と文化の要となった墨田川
「『ちょいと、銕つぁんじゃあねえか。素通りする気かえ』と、声がかかった。爺いのような塩辛声なのだが、声の主は女である。女といっても七十をこえた凧の骨のような老婆である。これが[笹や]の女あるじで、お熊…
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墨田高札十五番「五鉄」と「壺屋」の巻 両国4丁目に2つの高札
当時の相生町、現在の両国4丁目に2つの高札が立つ。一つは長谷川平蔵の連絡場所にもなっている軍鶏鍋屋「五鉄」があったことを示す高札で、竪川の二ツ目橋のたもとに立っている。同じ町内に、もう一つ。馬車通り…
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墨田高札十四番「長谷川平蔵の旧邸」の巻 親水公園の行き止まり近くの緑4丁目に立つ
亡き父・長谷川宣雄に従い、父が町奉行となった京都へ赴くまで、長谷川家は本所・三ツ目に屋敷があった。 このことを示す高札は親水公園の行き止まり近くの緑4丁目に立つ。今となっては辺りに江戸をしの…
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墨田高札十三番「相模の彦十の家」の巻 平十が長谷川平蔵の密偵になるまで
長谷川平蔵が相模無宿の彦十に会うのは二十何年ぶりのことだ。彦十は「銕さんのためなら、いのちもいらねえ」などと言い、若い平蔵を取り巻いていた一人であった。二ツ目橋の軍鶏鍋屋「五鉄」で、懐旧を温めている…
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墨田高札十二番「高杉銀平道場」の巻 2つの遊郭を結ぶ「親不孝通り」の由来
以下は、池波正太郎さんの「本所・桜屋敷」の一節。若き長谷川平蔵が剣の道に打ち込んだ高杉銀平の道場のあったあたりはいまは荒れ果ててしまっている。そこに平蔵は一人足を踏み入れたのである。 「ひなび…
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墨田高札十一番「法恩寺」の巻 落語「道灌」の主人公・太田道灌が開祖の寺
「幅二十間の本所・横川にかかる法恩寺橋をわたりきった長谷川平蔵は、編笠のふちをあげ、さすがに、ふかい感慨をもってあたりを見まわした。 鉛色の雲におおわれた空に、凧が一つのぼっている」 「…
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墨田高札十番「出村の桜屋敷」の巻 緑の大横川親水公園を渡る紅葉橋近く
「寒鴉が、荒れつくした庭の柿の木にとまっていた。 平蔵は、門内へふみ入った。 庭の北面は、武家屋敷の土塀によってさえぎられてい、その土塀から、このあたりにもめずらしい数本の山桜の老樹が…
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墨田高札九番「春慶寺」の巻 鶴屋南北の葬儀が盛大に営まれた
池波正太郎さんは鬼平の剣友・岸井左馬之助を「十七歳の折に左馬之助は好きな剣術の修行をおもいたち、江戸へ出て、押上の春慶寺へ寄宿し、本所の高杉道場へ通い、ここで、長谷川平蔵と親交をむすぶにいたった」と…
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墨田高札八番「業平橋」の巻 大横川に架かる業平橋の名の由来
「業平橋」は池波正太郎さんの短編「敵」に使われている。 「(おれの跡を、だれかがつけて来ている……) 五郎蔵は、そう感じた。 そこで、橋をわたり、すばやく西尾隠岐守下屋敷わきの木…
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墨田高札七番「常泉寺」の巻 女房むすめをおもちゃにする大悪党
池波正太郎さんの書く悪役はどれも、凄だまなので、鬼平や秋山小兵衛や梅安も大層苦労するのだが、それだから小説が面白くなる。 「正月四日の客」は、枕橋の北詰めにある蕎麦屋「さなだや」の項で紹介した…
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墨田高札六番「西尾隠岐守屋敷」の巻 震災記念堂の脇に住んでいた流行作家
高札に書かれた西尾隠岐守屋敷は業平1丁目にあったようだ。 西尾隠岐守の下屋敷は池波正太郎さんの短編「敵」の中で、「(おれの跡を、だれかがつけて来ている……)五郎蔵は、そう感じた。そこで、橋を…
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墨田高札五番「三囲神社」の巻 池袋・三越のライオン像が睨みを利かせている
「剣客商売」の「毒婦」では秋山小兵衛が長命寺や木母寺を過ぎて、三囲稲荷の前まで来ると「ついと、土手道に面した一ノ鳥居をくぐり、社の方へ」歩を進めた。「この小梅村にある三囲稲荷社は、田中稲荷などとも呼ば…
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墨田高札四番「みめぐりの土手」の巻 傾く芝居にホームレスは付き物なり
「みめぐり土手」と聞いてすぐ思い浮かぶのは、「法界坊」とも呼ばれている歌舞伎狂言「隅田川続俤」である。奈河七五三助が書き下ろして1784(天明4)年に初演された。 近年では2000年、18代中…
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墨田高札三番「枕橋 さなだや」の巻 大盗賊がすする辛いつゆの蕎麦
北十間川は木材などの運搬用として、1663(寛文3)年に開削された運河である。水戸藩邸の前に架かる源森橋から源森川とか源兵衛堀などと呼ばれていた。隅田川に一番近い橋は源兵衛橋とも枕橋とも呼ばれていた…
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墨田高札二番「如意輪寺」の巻 並木の藪の仇を吾妻橋やぶそばで討つ
長谷川平蔵の剣友・岸井左馬之助はすっかり「火盗改メ」の仲間になった気でいる。今も、盗賊・大滝の五郎蔵の後をつけて、如意輪寺門前の花屋へ入るのを見届けたところだ。池波正太郎さんは「鬼平犯科帳」の短編「…
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墨田高札一番「吾妻橋」の巻 芥川龍之介の短編「ひょっとこ」を思い出した
墨田区の高札は鬼平が活躍するところを選んで「鬼平情景」となっている。吾妻(大川)橋は台東区編で14番目に訪ねている。ここ墨田区ではいの一番に訪ねることになっている。同じ橋を西と東から訪ねるわけだ。高…
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高札十六番「浅草・御厩河岸」の巻 安藤広重の「吾妻橋金龍山遠望」が圧巻
「浅草・御厩河岸」は池波正太郎さんが1968(昭和43)年の「オール読物」新年号「唖の十蔵」から始める「鬼平犯科帳」シリーズの先駆けのように、前年12月号に発表した作品である。 その記念すべき…
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高札十五番「駒形堂と酒飯・元長」の巻 若女房おはるに似た「駒形どぜう」の中居の客あしらい
吾妻橋西詰から下りて川沿いの散歩道を下流に向かう。土曜日のせいか、大勢のランナーに抜かれる。すぐに駒形橋に着く。駒形橋は江戸時代にはなかった橋で、震災後1927(昭和2)年に架けられたもので、ここで…
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高札十四番「大川橋」の巻 吾妻橋ともいわれ、浅草・花川戸から本所・中之郷へ架かる大橋
大川橋は池波正太郎さん「剣客商売」の「暗殺」に紹介されている。 「大川橋は浅草の花川戸から本所・中之郷へ架かる長さ八十四間、幅三間半の大橋で、数年前に、この橋が大川に架かったときには、大和国か…
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高札十三番「船宿・嶋や」の巻 池波正太郎の碑から「めぐりん」で三ノ輪へ
今戸橋の南詰めにある待乳山聖天宮の下の池波正太郎さん生誕の碑から都道を渡って山谷堀広場にある高札十三番「船宿・嶋や」を見る。待乳山聖天宮は浅草駅から歩いてすぐである。古地図では山谷堀にかかった今戸橋…