小説「ゴルフ人間図鑑」 第5話 プッシュ
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(17)もうゴルフクラブは握らない
「やった!」 私は、パターを握りしめたまま右腕を高く掲げた。 「おめでとう」 国本はにこやかに私に近づいた。すでにボールはピックアップしている。国本はワンパットでカップインし、ダ…
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(16)「入れ!」私は思わず叫んだ
国本は、さかんに杉の上部を見つめている。国本の見ている方向にわずかに空間があるのだ。ボールを上げて、あの狭い空間を抜くつもりだろうか。もしうまく抜け出ることができれば、グリーン近くにボールを運ぶこと…
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(15)国本は左へひっかけた
「ああぁっ」 ゴルフ場に響き渡る悲鳴を上げたのは北条だ。ガクッと肩を落とした。 ボールは右の池に飛び込み、水しぶきが上がった。 思いがけない結果に、私は茫然となった。5年前の失…
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(14)あっ!ボールは右の池方向へ
今回は、プッシュできない。リードしてしまったからだ。私の実力を知っている国本は、途中から私の意図を見抜いたのか、警戒した様子で私のプレーを見ていた。 「どんな条件で?」 国本が聞いた。…
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(13)勝てば常務に取りたててやる
勝負は一進一退。私が72、国本が70。私は2ストローク負けている。前回と逆だ。 因縁の最終18番ホールになった。5年前、右の池に入れて、私は敗れた。そして200万円以上の金と妻の美穂を失った…
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(12)賭けの商品は自分自身の人生
6 国本との勝負が始まった。コースは、5年前と同じだ。 勝負の立会人は北里、西見、そしてまさかと思ったが、北条も現れた。北里に誘われ、嫌々ながらやってきたのだ。北条は、私に「負けるんじ…
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(11)負けた5年前の雪辱を果たしたい
「ところで今回の問題はかなり複雑で、我々も頭を抱えている」 北里が言った。 「何が複雑なのですか?」 「相手は銀座のママとお宅の頭取のふしだらな関係だ。私たちが、問題を抑えたとして…
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(10)賭けゴルフ専門で雇われた男
「払ってもらおうかね」 「そんな金、今、持ち合わせていません」 「それなら、後日、事務所に持ってくるんだな。その金と引き換えに記事を抑えてやるから」 「そんな……。記事は抑えるってお…
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(9)ありえない、1打1万円なんて
「あっ」 声が出た。それは悲鳴に変わった。 ボールは右方向に飛んでいく。右は池だ。私は、絶望的な気持ちでボールの行方を追った。池に入るなと強く願った。しかし、無残にもボールは池に消えた…
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(8)ポイントが3倍と聞き、欲が
「私は、このままだと負けてしまいそうなので、18番に賭けようというんです」 「でもまだ国本さんの負けが決まったわけじゃありませんよ」 「そうですがね。緊張感があっていいじゃないですか。この…
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(7)「プッシュしませんか」とにこり
私は緊張した。たとえ100円でも80ストロークで負ければ、8000円の支払いになる。 国本がどんなゴルフをするかわからないが、負けられない。 北里はラウンドせず、カートに乗って、私た…
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(6)手打ちにゴルフで勝負しないか
私は、北里と対峙していたソファから離れて、立ち上がった。一瞬、北里は私を見上げて怯えた表情になった。私が、暴力を振るうのではないかと思ったのだろう。 私は、床に正座をし、両手をつくと「お願い…
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(5)賭けゴルフにのめり込んでしまった
問題は賭けゴルフだ。私は、それにのめり込んでしまったのだ。 ゴルフの賭けルールは多種多様である。 もっとも単純な「縦」はストロークの合計で競うもの。「横」はホール・マッチ。「ナッソ…
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(4)順調な結婚生活がゴルフで一変
2 私も問題を抱えていた。妻の美穂に逃げられたのである。幸か不幸かわからないが、子どもはいない。ひとり身になって気楽ではないかと思われるかもしれないが、失って初めてわかる価値がある。それが…
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(3)弱腰経営者が連中をはびこらせる
さゆりへの要求を撤回し、以前と同じように、否、それ以上に手当てをはずむことになり、北里や西見への謝礼と口止めは、億単位の金を用意しなくてはいけないだろう。 そうしなければスキャンダルになり、…
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(2)愛人に1億円マンションを購入
見事に暴力団の顔を消してしまった。西見が率いる右翼団体も表向きは、まったく鬼塚組とは関係がない。しかし実体は、鬼塚組の政治団体と言っても過言ではない。 どんなことで北条は脅されているのか。 …
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(1)頭取が右翼大物に脅される失態
1 東西銀行頭取の北条敏夫は愚か者である。 なにが愚かか? それはこれだけコンプライアンスや法令順守と叫ばれている世の中で、右翼の大物に脅されるという失態を演じているからだ。 …