あいつらの末路
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(50)借金取りも大勢来ましたね
「今思えば、本当に夜逃げだったんでしょうね。家財道具、すべてそのままでしたから。それに、借金取りも大勢、来ましたからね。……本当に怖かった」 管理人さんが、当時を思い出したのか、目尻に涙を滲ま…
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(49)案内地図で指したのは景子さんの家
「そんなときです。防犯カメラに、決定的な証拠が残されていたという噂が立ったんです。そして、ある住民が、任意同行されるかもしれない……と。でも、実際には誰も任意同行はされていないんです。というのも、ある…
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(48)猫のように暖炉の前で体を丸め
「ちょっと寒くないですか?」 管理人さんは話を中断すると、やおら立ち上がった。そして、「暖炉をつけましょうか?」 「え? あの暖炉、使えるの?」 さくらちゃんが、暖炉を指さしなが…
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(47)警察手帳なんてはじめて見ました
「あの日のことは、昨日のことのようによく覚えていますよ」 管理人さんが、おとぎ話を聞かせるように語りはじめる。 ──二月の終わりの早朝でした。掃除をしていると、呼び鈴が鳴ったんです。窓…
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(46)30年前に家族が惨殺される事件が
「さくらちゃんち“も”というのは?」 さくらちゃんが、女子高生特有の懐疑の眼差しで訊いてきた。 「あー、ごめんなさい」とりあえず謝ってから、「私が今日訪ねる予定だった知人も、中古物件を破…
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(45)毎日の通学でもうへとへと
「両親が心配する? まさか」 さくらちゃんが、自嘲気味に言った。 「あたしを心配してるなら、こんなところに引っ越してこないって」 そして、少し冷めたルイボスティーをがぶ飲みすると…
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(44)11月半ばなのに窓の外は雪
「あ、雪!」 さくらちゃんが小さく叫んだ。 窓を見ると、……本当だ。雪だ。っていうか、雪!? まだ、十一月の半ばなのに? 「今年の初雪は遅かったですね」 管理人のおばあち…
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(43)美味しいお茶に心も解ける
多目的ホールのエントランスには、チケット売り場のような小さな窓があった。年老いた女性が座っている。管理人だろうか? 女子高生が窓をトントンと叩くと、老婆がおもむろに顔を上げた。 「もし…
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(42)なんで電波が入らないの?
「あら、エレベーター、もう一基あるじゃない!」 朝美は、嬉々として声を上げた。今まで気が付かなかったが、ホールにはもうひとつ扉がある。間違いない、あれは、エレベーターの扉だ! 「ああ、あ…
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(41)帰宅困難者は駅前のホテルに
雨足はますます強くなる。まるで、滝壺の中にいるようだ。四方八方から雨粒が飛んできて、これじゃ、仮に傘を用意していたとしても無駄だったろう。 「それで、おばさんはどうするんですか?」 女…
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(40)バレタインデーに起きた悲劇
【バレンタインの惨劇】 1996年2月14日、バレンタインデー。ベッドタウンH市の住宅街で、家族5人が惨殺されるという惨劇が起こる。 事件の現場になったのは、H駅からバスで15分ほどの…
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(39)突然の豪雨に「おばさん、傘は?」
「じゃ、あたし、行きますね。バイバイ」 女子高生の姿が見えなくなったことを確認すると、朝美は、インターホンを押してみた。反応はない。 うーん、どうしようか。電話でもしてみる?ってそうだ…
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(38)ここって磁場がおかしいんですよ
「あの角を曲がるとT字路なのでそこを右側に折れて、するとゴミ集積場が見えてきますので、その五軒先が目的の家です」 エレベーター前で出会った女性は、突然、歩みを止めた。 「あとは、お一人で…
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(37)なんなのよ!このポンコツが!
「なんなのよ! このポンコツが!」 初老の女性が吼えた。その上品な出で立ちとは裏腹のがらっぱちな物言いに唖然としていると、女性と目があった。 「あら、あなた。見ない顔ですね」 「あ…
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(36)エントランスは高級ホテル並み
「ひゃー、豪華ねぇ」 エレベーターの入り口。いや、エントランスと言っていいだろう、そこは、睦代が言っていた通り、高級ホテルのそれだった。百平米は優に超えるスペースにはバラの生花がそこかしこに飾…
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(35)本当にニュータウンがあるの?
「破輪洲駅でございます」 幸運なことに、目的の駅に到着したようだ。朝美は慌ててタブレットをトートバッグにしまうと、逃げるように電車から下りた。 寒い。というか、冷たい。 まだ真…
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(34)車窓の外には鬱蒼とした森林
しかし睦代は、待ち合わせの場所に来ることはなかった。 『ごめんなさい! 急用が入ってしまって。一人で行ってくれますか?』 想定内だった。睦代は作家潰しの異名だけではなく、ドタキャンの女…
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(33)紋次郎のためにも稼がなくては
結局、連載の具体的な話はないまま、食事会はお開きとなった。 これも、睦代の手口だ。言い出しっぺなのに、いつのまにか受け身に回る。今回も、「小説をぜひ書かせてください」と、まるでこちらが懇願し…
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(32)ゴミの家という繭の中にいるよう
「っていうか、なんなの、その旦那!」 どうしても我慢ならず、朝美は口を挟んだ。 「家からひとり逃げ出しただけでなく、カードの支払いまで妻に押しつけるなんて。景子さんはなんで、離婚しないの…
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(31)私の貯金も底をつきました
「ほんと、そこが落とし穴なんですよね」 睦代は、どこか楽しげな調子で言った。 「安い!と思って飛びついたはいいけれど、管理費が高くてすぐに引っ越した……という話はよく聞きます。リゾートマ…