「こんな写真があったのか幕末明治の歴史風俗写真館」石黒敬章著
■写真で読み解くリアルな幕末明治の日本
著者親子が2代にわたって収集してきた幕末明治期のさまざまな古写真を紹介する写真集。
古写真を見る楽しみのひとつは、その読み解きにある。例えば、明治43年ごろに撮影された丸の内の写真。日本初のオフィス街として馬場先通り沿いにれんが造りのビルが建てられたその一角は、ロンドンのように見えたので「一丁倫敦」と呼ばれていた。その写真の隅、道路わきに高さ2メートルほどの円筒形の構造物が写っているのだが、調べると明治39年に設置された人馬犬猫共用の水飲み場だと分かったそうだ。さらに調べると、この飲水栓が新宿駅東口広場に現存していたという。
日本の写真草創期、写真は高価だったのに、脱藩浪人だった坂本龍馬の写真が8種類も現在に伝わっているのはなぜか。生涯写真に写されることがなかったという西郷隆盛だが、数多く残る西郷写真の真贋、そして後世の西郷像の原型となっている肖像画の基となった2枚の写真(弟と従弟)など、幕末の志士らをめぐる写真も解題。
当時の「写真に写ると手が大きくなる」という迷信を証明するかのように、着物の袖に手を隠して納まるおいらんや武士と女たちの写真もある。