シネマの本棚
-

アジアの映画人との縁を育てた故・佐藤の生涯
私事で恐縮だが、今年の夏と秋は映画祭の仕事でまるで休みがなかった。隔年開催の「山形国際ドキュメンタリー映画祭」で特集上映の企画を共同担当し、作品選定から先方との交渉や手配、解説カタログの編集、当日の…
-

意思と肉体を持ったAIが現実世界で動き出す
興行上の失敗作がやがて人気を得てカルト映画化するというのはよくある話。典型が「ブレードランナー」だ。同じ1982年に全米公開されてやはりコケたのが「トロン」。ゲーム制作者がゲームの中にのみ込まれてレ…
-

破棄された東独マルク紙幣で一儲けを計画
どんなにグローバル化が進んでもなかなか国境を超えないのが「笑い」。ジョークや風刺は暮らしや言語に密着するぶんだけ、翻訳しても伝わりにくいのだ。 しかしそれでも一見の価値ありというドイツの未公…
-

仮釈放中の男と1匹の犬との奇妙な絆を描いた快作
巨大な画面でも見劣りしない映画をつくれる。そういう国は必ず映画産業全体に勢いがある。それを実感するのが今週末封切りの「ブラックドッグ」、最初のショットから観客の心をさらう快作である。 冒頭、…
-

オランダ育ちの元難民少女が故郷ボスニアへ
古い文献を読んでいたら「絵画的な映画」という言葉が目についた。映画は絵として美しくあるべきだというのである。映画は大きなスクリーンを画布とする絵なのだ、と言い換えてもいいだろう。 来週末封切り…
-

親しくなったクジラたちとの交流の物語
真夏の太陽と海洋ドキュメンタリーは似合いの組み合わせだろうが、実は期待はずれも少なくない。一面に広がる海の青というだけで絵になることに甘えた凡作が意外に多いのである。 しかし今月末封切りの「…
-

NYの伝説のビデオ店をめぐるドキュメンタリー「キムズビデオ」
いま40代以上の世代なら覚えているはずなのがレンタルビデオ店。わけても通好みのマイナー作品をそろえた店は、やれ渋谷だ水道橋だと、それぞれうるさ型の馴染み客がついていたものだ。 そんな往時を蘇…
-

複数の詩編のように描いた「ここにいない人」
映画は、ただ映像をつなげれば映画になるわけではない。当たり前だといわれそうだが、ただ言葉をつなげればそのまま詩になるわけじゃないのと、それは同じだ。 のっけから何いってるんだといわれそうだが…
-

人の世の愚かさとはかなさが胸に迫る
毎年夏になると昔は風物詩みたいに戦争映画が公開されたものだが、戦争映画は金がかかる。中身にかかわらずセットやロケ撮影をケチると見た目がちゃちになるから、反戦のメッセージをよりよく届けるにも徹底して、…
-

“地を這うヒコーキ”の体感に没入
いつだったか懇意のベテラン自動車メカニックに「飛行機の免許をとろうかな」と口にしたら即座に「およしなさいよ」と一蹴された。その理由がいい。「だってね、空には地面がないんですよ」 この冗談(の…
-

無実の罪で収監されたアメリカ人の人情悲喜劇
外国の独裁政権に逮捕されるアメリカ人が急増中と最近の「ウォールストリート・ジャーナル」が報じている。昔から脇が甘くておせっかいなのがアメリカ人旅行者の共通点なのだが、まさにそこから始まる悲喜劇を描く…
-

チェーホフの短編を編んだダメ男の恋物語
小説を意味する「ロマン」という語にはロシア語で「情事」や「密会」の意味があるのだそうだ。つまり物語を味わうのは情事に耽ることと同じというわけだ。そんな意味深な一言から始まる大人の映画が今週末封切りの…
-

人生の転変をめぐる感慨へと誘う主人公の変化
「芸といふものは実と虚との皮膜の間にあるもの也」とは近松門左衛門の「虚実皮膜」の芸術論。この言葉を地でゆく映画が先週末封切りの「新世紀ロマンティクス」である。 北京五輪を翌年に控えた中国の地方…
-

忘れられたピアニストの悲劇の謎
忘れられ、埋もれていた芸術家に光を当てる。そのさまはどこか探偵の失踪人捜しに似ている。先週末封切りの「ボサノヴァ 撃たれたピアニスト」はそういう映画だ。 探索の相手はテノーリオ・ジュニオル。…
-

定点観測で描く幾世代者家族の物語
かつて日本でもヒットした映画「フォレスト・ガンプ」。戦後生まれのベビーブーム世代が40代50代を迎えるころ、戦後史を絵巻物のように振り返って、保守化する時代風潮を体現した映画だった。 その監…
-

アングラ全盛期を背景に描く写真家・深瀬昌久
先日の夜更けに新宿ゴールデン街を歩いて仰天した。深夜というのにあっちでもこっちでも外国人旅行者がきょろきょろとうろついて、まるで渋谷のスクランブル交差点だ。 なんだこれ、としらけた気分になっ…
-

ディランが時代のアイコンになり得たわけ
先週末封切りの「名もなき者」はボブ・ディランのデビュー時代を描いた話題作。事前にネットやTVでディランの若いころの記録動画が出回ったが、改めて聴くとほんとに下手。声量もなく、この貧相な若者に時代が熱…
-

実話に基づいたイラン女子柔道家の闘い
いまネットで「イラン、柔道」と検索すると、この映画の話が多数ヒットする。今月末封切りの「TATAMI」だ。 イランの女子柔道家レイラが国際大会で勝ち進むが、イラン政府はイスラエル選手との対戦…
-

30年後に脚光を浴びた兄弟デュオの実話
2期目のトランプ政権発足でまたもポピュリズムが時代のバズワードになっている。この言葉、「大衆煽動」の意味はあくまで一部。文脈次第で「民衆本位」から「大衆迎合」まで含意は広い。 今週末封切りの…
-

トランプは誰からハッタリ商売と暴言術を教わったのか?
2025年最初の1作は「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」。お察しの通り次期(現時点では)大統領の若いころの話だが、これを初めに持ってくるのは正直なところためらう。 だってそうでし…
