「鬼滅の刃」大ヒット!鬼とは何なのか“正体”がわかる7冊
「鬼滅の刃」が話題だ。コミック(全23巻)は累計1億部を突破、映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、このコロナ禍において興行収入歴代2位の「タイタニック」の記録を抜き去り、300億円超えのお化けヒット。
なぜ今、「鬼」なのか――。一体、「鬼」とは何なのか。その正体を知るべく、「鬼」の世界へ誘う本を紹介しよう。
2016年2月から20年5月まで「週刊少年ジャンプ」に掲載された吾峠呼世晴による漫画作品。
あらすじ 舞台は大正時代。炭を売って家族の生活を支える主人公・竈門炭治郎が、ある日仕事から帰ると家族が鬼に殺されていた。妹・禰豆子は唯一生き残ったが鬼化していた。家族の敵討ちと妹を人間に戻すためにきょうだいで“鬼退治”の旅に出る。
「鬼棲むところ」朱川湊人著
今昔物語には数多くの鬼の説話が収録されている。本書には8つの鬼に関する物語が収められているが、そのうち6つが今昔物語の説話を大胆に脚色・翻案したものだ。
1話目は「鬼一口」。ある貴人の館の牛飼いとして働いていた外道丸は類いまれな美貌の持ち主。館の姫が狭い屋敷を飛び出して自分の足であちこちを見て歩きたいと言っているのを聞き、それを実行に移してやりたいという衝動に駆られた外道丸は、姫を連れて出奔する。追っ手から逃れ、雷鳴の中、山中の小屋で一夜雨宿りする。翌朝目覚めると、姫は死んでいた。鬼が現れ姫を一口でのみ込んでしまったのだ。姫の骸を前に外道丸は……。
最後の2話は、酒呑童子の副将格の茨木童子が女であるという伝説をもとに、茨木が酒呑童子の元へ行く経緯と、源頼光らとの戦いが描かれる。いずれの話からも鬼の悲しげな声が響き、各話のラストに置かれる「鬼哭啾々(きこくしゅうしゅう)」という言葉が染みる。
(光文社 1800円+税)
「鬼人幻燈抄――葛野編 水泡の日々」中西モトオ著
時は江戸末期の天保。5歳になる甚太は、父の度重なる妹の鈴音への虐待に耐えかね、妹を連れて江戸の家を出た。とはいえ何の当てもなく2人で途方に暮れていたところに20代半ばくらいの男が「うちに来ないか」と声をかけてくれた。
3人が着いたのは江戸から130里ほど離れた山間の集落で、古来、鉄を作るたたら場として栄えていた葛野だ。男は元治といい葛野の「いつきひめ」と呼ばれる巫女の夫で、鬼切役という巫女の護衛を務め、娘の白雪と2人で暮らしていた。
それから13年。元治は亡くなり、甚太が鬼切役を継ぎ、白雪は新たに「いつきひめ」となっていた。
鈴音だけは当時とほとんど姿が変わらず幼いままだった。彼女は常に右目に包帯をしていたが、その奥には鬼である証しの赤い瞳があったのだ。その鈴音を取り戻そうと葛野に鬼が現れる。妹を守るべく甚太は勇躍鬼に向かっていく――。
本書はシリーズ第1巻。現在明治編の5巻まで刊行。
(双葉社 1300円+税)
「鬼談」京極夏彦著
「鬼と女とは人に見えぬぞよき」――これは平安時代の物語「虫めづる姫君」の主人公の言葉だが、本書収録「鬼棲」の主人公の伯母も言う。
「鬼って、見えないものよ。……ないものを見るには、記憶に頼るしかないのよね。……鬼というのは記憶なの。連綿と続く過去こそが鬼よ」と。 伯母は亡き父の双子の姉なのだがまるで似ていない。主人公が父から相続した家には絶対開けてはならない部屋があるという。中に何があるのかと伯母に問うと、何もないという。何もないからこそ見ては駄目なのだと言い募る伯母と話しているうちに、この人は何者だろうという疑念が湧いてくる。すると、伯母らしき人は、にこりと笑った――。
本書は、「鬼交」「鬼想」「鬼縁」「鬼情」「鬼慕」「鬼景」「鬼棲」「鬼気」「鬼神」という鬼尽くしの9編の短編集。過去と現在を自在に往還しながら鬼という怪異の正体に迫る、京極ワールドの神髄。
(KADOKAWA 560円+税)
「鬼とはなにか」戸矢学著
本書によると、社名(通称も含む)に「鬼」の字が入っている神社は、全国に61社あるという。巖鬼山、拂鬼、鬼越、鬼渡、鬼王、鬼生稲荷、七鬼、鬼鎮、鬼ケ城、鬼頭、鬼多、鬼門、大鬼……。
しかもそのうち42社は長野、静岡、石川、岐阜を含めた東国に集中している。これは何を意味するのか?
著者が本書で「鬼」と呼んでいるのは、端的に「縄文人」を指しており、縄文の痕跡が残っているところに「鬼」に関する神社が多くあるということだ。さらにいえば、ヤマト王権にまつろわぬ者たちを「異人」(山人、海民、漂泊民)として排除し、それこそが鬼の原型ということにもなる。
本書は、「新皇」と称し東国においてクーデターを起こした平将門をはじめ、怨霊信仰、吉備の温羅(うら)伝説、夜叉、ヒミコの鬼道、鬼門信仰など多彩な角度から日本列島に根付いた鬼伝説の真相を読み解いていく。
(河出書房新社 1850円+税)
「鬼の研究」馬場あき子著
桃太郎の鬼退治に典型的なように、古来、鬼とは邪悪なものであり、調伏すべきものだった。しかし果たしてそうなのか。そうした従来の観念に敢然と異を唱えて、鬼という存在の意味を問い直したのが、1971年に刊行された本書だ。
たとえば「般若」。この般若には「三従の美徳に生きるはずの中世の女が、鬼になるということのなかに、もっとも弱く、もっとも複雑に屈折せざるを得なかった時代の心や、苦悶の表情をよみとる」ことができ、般若の面は「そうした鬱屈した内面が破滅にむかう相を形象化した」ものだと著者はいう。
さらに、中世説話で語られる鬼には、王朝繁栄の暗黒部に生きた人びとや反体制的破滅者の姿が投影され、そこには破滅しつつも現実を生き抜いた庶民的エネルギーも感じることができる、と。
このように高らかに鬼の復権をうたった本書は以後、鬼研究の古典として確固たる地位を守り続けている。
(筑摩書房 760円+税)
「鬼滅の日本史」小和田哲男監修
「鬼滅の刃」に登場する鬼は、悲しい過去や逃れがたい境遇、自らのコンプレックスなどが原因で鬼となった元人間だ。こうした「人間とは異なる特徴を持ち」「人間の悲哀や欲望といった感情を強く持つ」存在としての鬼の概念は、古典に描かれてきた鬼と共通する。
本書は、鬼が登場する古典をひもとき、日本人の心の奥深くにあり続ける鬼について解き明かすビジュアル歴史テキスト。
人間と鬼の戦いは約1600年も前から続いている。鬼について記述がある最古の文献「出雲国風土記」に登場する「阿用郷(あよのさと)の鬼」をはじめ、「平家物語」の生きながら鬼になった「宇治の橋姫」など、「鬼滅の刃」に登場する鬼と比較しながら古典に描かれた鬼たちを解説。
さらに物語を読み解くことによって見えてくる日本史の闇や、大ヒットの秘密、そしてそもそも鬼とは何かという考察まで。「鬼滅の刃」の奥深い世界観が理解できる格好の副読本。
(宝島社 1000円+税)
「都道府県別 にっぽんオニ図鑑」山崎敬子著 スズキテツコ絵
鬼といえば、頭の角と虎柄パンツ、そして手の金棒を思い浮かべるが、このイメージは近世に生まれた新しいもの。
かつて鬼がやってくると考えられていた北東の方角は「鬼門」と呼ばれた。一方で北東は干支の「ウシトラ」の方角であり、そのウシとトラのイメージが鬼と重なり、ウシの角とトラのパンツになったそうだ。
平安時代の日本最初の辞典「倭名類聚抄」には、「オニ」とは隠れて姿を見せないモノと記されており、本来は角があるものでも怖いものでもない。
本書は、日本各地の祭礼や風習の中に今も生きるさまざまな「オニ」たちを紹介する絵本図鑑。
北海道の温泉地、登別市の地獄谷に住んでいたといわれる「湯鬼神」をはじめ、沖縄県宮古島に伝わる泥まみれの来訪神「パーントゥ(お化け・鬼神の意)」まで、都道府県別にイラストで紹介。
「鬼滅の刃」で鬼に目覚めた子供たちと、各地の鬼を一緒に楽しもう。
(じゃこめてい出版 1300円+税)