春風亭小朝 AKB48は噺家に欠ける部分を気づかせてくれた
AKB48「君のことが好きだから」
子どもの頃から落語やクラシック音楽が自然にそばにあるような家庭に育ちました。噺家になりましたけど、カルロス・クライバーというカリスマ指揮者の演奏会や、ウラジミール・ホロビッツというピアニストの演奏会に影響を受けて、ほかにもマンハッタン・トランスファーというジャズのコーラスグループや、ハイ・ファイ・セット、ユーミンのコンサートも楽しんできました。
今はそこにAKB48が加わりました。“人生が変わった”と思った、一番最近の音楽ですね。彼女たちを「口パク集団だ」みたいに言う人がいますけど、彼女たちがどれだけ頑張っているか。私はしの笛で、彼女たちの震災復興応援ソング「掌が語ること」を気分転換で吹いたり、移動の車の中とか高座に上がる前にも聴いたりしていますよ。
■何度聴いても心が揺れます
AKB48に深入りするようになったのは、4年前。依頼が来て、秋葉原で「イヴはアダムの肋骨」というAKB48の劇場特別公演をプロデュースしたんです。それまでAKB48の存在は知っていましたが、詳しくは知りませんでした。プロデュースをするにあたって、彼女たちの歌を聴いて、タイトル、メンバー、セットリストなどを全部決めたんですけど、10代、20代の女子たちがどんなことに喜び、イラつき、怒るってことが、なかなかわからなかった。それが選抜総選挙やショールームを見ると、リアルにわかるんですね。
昔はアイドルって、自分たちの本音を隠そうとしたでしょ。でも、今のアイドルは隠したらやっていられないから、ショールームでは自分の思いや考えをファンに訴える。総選挙では念願の選抜メンバーに入ったり、傷ついたり、悔し涙を流して卒業していったり……残酷なシステムですけど、生のドラマがあります。10~20代の人間の生々しい生きざまを見ている感じがします。これは落語やお芝居をやるうえでも、血となり肉となります。貴重な人間観察をさせてもらってると思います。これは今まで生きてきて、なかったことです。
彼女たちは貴重な青春時代を、ただ学校とレッスンに明け暮れ、恋愛は禁止され、遊んでいる時間はありません。しかも、まわりは全員ライバル。総選挙で容赦ない浮き沈みを、短い人ではAKB48で活動するたった4、5年で経験するんですよ。
AKB48は今、全盛期よりメンバーはかわいくなり、ダンスのスキルも上がっています。トークもできて、うまくボケることもできる。にもかかわらず、グループ全体としては行き詰まっている。ただ売れたい、チヤホヤされたい、という人が増える一方で、このままじゃダメになる、と頑張っている人たちもいます。それは、彼女たちを見ていればハッキリわかります。たとえば、最後にみんなで並んで挨拶をして、ステージから手を振りながら引っ込んでいく時。お客さんから見えなくなるわずか30センチ手前ぐらいで気を抜く人もいるけど、スターは“もう一入れ”して消えていくんです。