著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

心震わせる「るろうに剣心」最終章史上初ワンツーの必然

公開日: 更新日:

人気は健在

 興味深い現象が起きている。「るろうに剣心」シリーズ2部作の1本にして完結作である「るろうに剣心 最終章 The Beginning」(6月4日公開)と、前作「るろうに剣心 最終章 The Final」(4月23日公開)が週末の興行ランキング(6月5、6日の動員累計)で1位、2位を独占したのだ。

 興行ランキングで2部作“ワンツーフィニッシュ”は初めてだ。前作「~The Final」は公開当初、東京都と大阪府による映画館への休業要請が重なり、厳しい状況下でのスタートだった。興行収入の目標値は高いものだったが、すでに35億円を超え、2012年公開の1作目「るろうに剣心」(30億7000万円)を上回った。人気は健在であった。

 最終章2部作が1、2位を占めた背景には、コロナ禍が影響しているともいえる。一般的な2部作は、最初の作品の公開から1カ月以上経過した後に次の作品の番が回ってくる。間隔が数カ月空く場合もあるが、最初の作品は次作が公開される時点で上映終了間際、あるいは完全終了であることが多い。他の強力な作品も次から次へと公開されるので、前作が集客をキープするのは至難の業となる。

 ところが、コロナ禍で延期の作品が相次ぎ、強力な新作がなかなか出てこない。映画館は上映作品の編成に苦慮している。「るろうに剣心」の前作は公開から6週間以上経っているにもかかわらず、新作公開の時点でも473スクリーンで上映された。だから観客は余裕のなかで、両作品を順繰りに見ることができる。

 最近でこそ邦画による2部作の公開スタイルは減ったが、少し前は目立ったものだ。2000年以降では、2006年の「デスノート」2部作(累計80億8000万円)の大ヒットが引き金となった。その後、3部作の「20世紀少年」(08年~09年)や2部作の「のだめカンタービレ」(09年~10年)、「るろうに剣心」(14年)などが登場し、ちょっとした連作ブームとなる。いずれも人気コミック原作の実写化作品が主流で多くのコミックファンによる岩盤支持があった。加えて、洋画から邦画に人気が集まり出した時期でもあった。若い観客が邦画に関心を持ち始めたのだ。

■「2粒で4度おいしい」

 2部作というとキャラメルで有名なキャッチフレーズをいつも思い出す。「1粒で2度おいしい」というあれだ。2部作の場合、厳密にいえば「2粒で4度おいしい」となるが、要は楽しさが倍増する、いかにも気分を高揚させる言葉なのだ。これは人のワクワク感を刺激する「お祭り気分」にも通じるが、「るろうに剣心」は、そのお祭り気分を引き継いでいる。それは実際に周囲の人たちとはしゃぐのではなく、あくまでマインド的なものであり、この時世においても有効だと考える。五輪・パラリンピックのパブリックビューイングとはまるで意味が違う。

「~The Beginning」が引き付ける魅力

 筆者は公開されたばかりの「~The Beginning」を前作以上に面白く見た。佐藤健演じる剣心=抜刀斎の原点を描く。彼の思い、行動の根本にあるのが、世の中を変えたいという衝動だ。大混乱に陥っている幕末の時代、長州の一人の無名の民である抜刀斎が、身につけた剣の技で密やかに世に出て行く。人斬りという役割を長州から与えられるがそれは当然、フィクションとしての体裁、見せ場の主軸をなす。ただそこから感じられるのは世直しへの強烈な思いであり、その思いは一人の女性・巴(有村架純)と関わることで、次第に悲劇的なものに転じていく。彼の中に人斬りへの大きな疑念が生まれるが、人斬りの歩みはある決着点まで行くことになる。

■主人公の内面を知りたくなる

 世の中を変えるとは一体何なのか。この疑問に対し、本作は明確な答えを示していない。なぜに人斬りなのか、抜刀斎の内面にある深い部分をもっと知りたくてたまらなくなる。ただ、こうも考える。強烈な思いや行動には何らかの理屈、理論、思想が必要なのだろうか。理論、思想があれば、いずれも正当化されるのだろうか、と。思いの強さ、行動が、まずもって厳然とある。本作は人と世の不可思議さが、剣さばきの苛烈極まるアクション描写の中から次第に忍び寄ってくる。これが面白い。

 最終章は2部作と謳っているが、話はつながっておらず、新作では明治から幕末に移り、主人公のまっさらな部分が描かれる。この構成にもワクワクする。2部作の常識をひっくり返したともいえる。

 恋愛劇や人の幸せの観点から楽しんでもいいだろう。繰り返すが、どちらから見ても楽しめる「2粒で4度おいしい」作品だ。その味を存分に噛みしめたい。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    山崎まさよし、新しい学校のリーダーズ…“公演ドタキャン”が続く背景に「世間の目」の変化

  2. 2

    「汽車を待つ君の横で時計を気にした駅」は一体どこなのか?

  3. 3

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  4. 4

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  5. 5

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  1. 6

    国分太一は人権救済求め「窮状」を訴えるが…5億円自宅に土地、推定年収2億円超の“勝ち組セレブ”ぶりも明らかに

  2. 7

    “裸の王様”と化した三谷幸喜…フジテレビが社運を懸けたドラマが大コケ危機

  3. 8

    人権救済を申し立てた国分太一を横目に…元TOKIOリーダー城島茂が始めていた“通販ビジネス”

  4. 9

    森下千里氏が「環境大臣政務官」に“スピード出世”! 今井絵理子氏、生稲晃子氏ら先輩タレント議員を脅かす議員内序列と評判

  5. 10

    大食いタレント高橋ちなりさん死去…元フードファイターが明かした壮絶な摂食障害告白ブログが話題

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    コメ増産から2カ月で一転、高市内閣の新農相が減産へ180度方針転換…生産者は大混乱

  2. 2

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  3. 3

    “裸の王様”と化した三谷幸喜…フジテレビが社運を懸けたドラマが大コケ危機

  4. 4

    ソフトバンクは「一番得をした」…佐々木麟太郎の“損失見込み”を上回る好選定

  5. 5

    ヤクルトのドラフトは12球団ワースト…「余裕のなさ」ゆえに冒険せず、好素材を逃した気がする

  1. 6

    小泉“セクシー”防衛相からやっぱり「進次郎構文」が! 殺人兵器輸出が「平和国家の理念と整合」の意味不明

  2. 7

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  3. 8

    菅田将暉「もしがく」不発の元凶はフジテレビの“保守路線”…豪華キャスト&主題歌も昭和感ゼロで逆効果

  4. 9

    元TOKIO国分太一の「人権救済申し入れ」に見る日本テレビの“身勝手対応”

  5. 10

    “気分屋”渋野日向子の本音は「日本でプレーしたい」か…ギャラリーの温かさは日米で雲泥の差