著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

岡田准一は伝説のヒーローに!新作「ザ・ファブル」邦画アクションに新風吹き込む

公開日: 更新日:

 映画の俳優が生き生きしているとうれしくなる。俳優が作品の面白さを引き出す。そこから、映画を見る醍醐味が何倍にも膨れ上がる。先週公開された「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」を見て、そう強く実感した。

■最終興収で20億円超えも視野に…

 最終興収で20億円超えも視野に入る大ヒットになっているが、その理由として、作品の充実ぶりとともに、主演の岡田准一の卓越した演技力を挙げたい。主演だけではない。脇を固める俳優陣の奮闘も映画を光り輝かせている。これは映画の一つの理想形ともいっていい。今年の映画界は何本もの邦画のアニメーションが脚光を浴びているが、邦画実写作品の踏ん張りにも拍手したい。

「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」は、前作「ザ・ファブル」のヒットを受けた岡田主演による続編である。面白い。手に汗握る。笑っていると、次のシーンではハラハラドキドキとなる。軽さから重さ、重さから軽さ、この緩急自在な演出には全く胸がすく。

 前作以上に、その演出手腕が際立っている。作風が一段と洗練されてきたともいえる。殺し屋が、ボスに命じられて大阪で普通の生活をする。人を殺してはいけないのだ。この前作同様の設定が映画の骨格にあり、約束事を頭に入れた観客は主人公がどのように敵を倒すのか。クライマックスにあるアクションシーンを想像しながら、固唾を飲んで待ち望むことになる。映画はまさに観客の思いどおりに、いやそれ以上の迫力で展開する。これが実に心地よい。

 伝説の殺し屋(過去の話だが)で、通称・ファブルを演じる岡田准一の強さといったらない。映画史上を見てもこれほど強靭なヒーローはめったにいるものではない。その強さは前作と同じように映画の中で都市伝説化しているのだが、伝説を裏付けるのが、敵と相対すときの岡田の無表情さだ。

 それは何があっても動じない象徴なので、観客は見ただけでファブルが負けるとはまず思わなくなる。自信たっぷりというより、無表情が彼にとっての普通の証であり、観客を安心させる。いつ何時危機に瀕しても「問題ない」だ。冗談ではなく、本心でいっている。アクションシーンの切れ味抜群の動きもヒーローを演じた先人たちに遜色なく、岡田は本作で「伝説のヒーロー」になったといって差し支えない。

平手友梨奈の存在感際立つ

 車椅子に乗る女性役の平手友梨奈もまた、悲劇的な境遇からなかなか抜け出せないジレンマの表情を巧みに演じて見事である。キリッとした太い眉、光る眼光が、そのジレンマの背後から気持ちの強さとして際立つ。安全な日常を失った彼女だったが、絶えず揺れ動いていた表情が次第に普通さを取り戻していく様が圧巻だ。これは、無表情=普通さを会得しているファブルとは対極にある。

 本作の大きな見どころは男女2人が違うベクトルの中で関わりを持ち、それが苛烈なアクションシーンと見事にマッチングしていくところだ。全く舌を巻くぐらいよくできた娯楽作品なのである。

 敵役となる堤真一安藤政信にも触れなければ、本作を語ったことにはならない。堤は円熟の境地にきた。硬軟併せ持つ懐の深い自在な演技の幅が申し分ない。過激にならず、用心深い。優しさと怖さが彼の中で入り混じる。ファブルにとって、これほど不気味な難敵も、そうそういないだろう。

 安藤は整形で顔を若くし、長髪を後ろで束ねた精悍な40男の役だが、どこかに善良さ=普通さを潜ませていて凶悪と善良さの配分が絶妙であった。彼は、強面な凶悪犯を徹底的に演じることができる俳優だが、今回はその持ち味をずらし、新境地を体現した。早い段階で自身の無力さを知るあたりから、表情が微妙に弱々しくなっていくのがとてもいい。

■邦画のアクションムービーに新機軸

 ファブルの妹分の木村文乃が前作より数段魅力的だったことにも触れないとバランスを欠く。例によってファブルへの言葉の突っ込みが絶好調ながら、敵を股座で締め付けてフィニッシュに持っていくあたり、拍手喝采である。

 本作は邦画のアクション映画に新風を巻き起こしたと思う。これが一つの水準になると、いい加減なアクション映画はこれから作れなくなる。その中心に俳優陣の数々の素晴らしい演技があったことはとくに強調しておきたい。監督は映像ディレクターとして知られ、本作が映画4本目となる江口カン。邦画の期待の星である。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  2. 2

    人事局付に異動して2週間…中居正広問題の“キーマン”フジテレビ元編成幹部A氏は今どこで何を?

  3. 3

    中居正広氏&フジテレビ問題で残された疑問…文春記事に登場する「別の男性タレント」は誰なのか?

  4. 4

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  5. 5

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  1. 6

    萩原健一(6)美人で細身、しかもボイン…いしだあゆみにはショーケンが好む必須条件が揃っていた

  2. 7

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  3. 8

    TV復帰がなくなった松本人志 “出演休止中”番組の運命は…終了しそうなのは3つか?

  4. 9

    "日枝案件"木村拓哉主演「教場 劇場版」どうなる? 演者もロケ地も難航中でも"鶴の一声"でGo!

  5. 10

    “年収2億円以下”マツコ・デラックスが大女優の事務所に電撃移籍? 事務所社長の“使い込み疑惑”にショック

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    べた褒めしたベッツが知らない、佐々木朗希"裏の顔”…自己中ぶりにロッテの先輩右腕がブチ切れの過去!

  2. 2

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  3. 3

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  4. 4

    巨人・田中将大“魔改造”は道険しく…他球団スコアラー「明らかに出力不足」「ローテ入りのイメージなし」

  5. 5

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  1. 6

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  2. 7

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…

  3. 8

    佐々木朗希を徹底解剖する!掛け値なしの評価は? あまり知られていない私生活は?

  4. 9

    大阪・関西万博の前売り券が売れないのも当然か?「個人情報規約」の放置が異常すぎる

  5. 10

    僕に激昂した闘将・星野監督はトレーナー室のドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきて…