イルカさん「なごり雪」プロデュースした夫との運命的な出会いを語る
イルカさん(シンガー・ソングライター/70歳)
イルカさんは今年でデビュー50周年を迎えた。今も鮮やかに覚えているのは代表曲「なごり雪」をプロデュースした夫・神部和夫さんと出会った瞬間。「運命」と語る初対面のシーン……。
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■目と目が合って初対面なのに懐かしく感じた
こうして50周年を迎えることができたのは彼との出会いがあったからです。
女子美術大学に入ったばかりの18歳の春。最初私が目指していたのは陶芸家でした。でも、ビートルズが好きでギターを弾いて、曲も作れる、できれば将来はビートルズみたいなバンドをやりたい……。それでフォークソング同好会のポスターが気になってのぞいてみたのが始まりです。
同好会に入って次の週のことです。早稲田(大学)のフォークソング倶楽部からコーチがやってくるというので、先輩たちがものすごく盛り上がっていたんですね。女子美は男子がいないし(笑い)、当時の早稲田のフォークソング倶楽部は学生なのにレコードを出している人がいるようなきらびやかな存在でした。でも、私は教えてもらいたいこともないし、ジョン・レノンと結婚したいと思っているような乙女でした。
最初の部活の時です。授業が長引いたのでドアをそっと開けて遅れて入っていったら逆に目立ってしまい、彼と目と目が合って、その瞬間に妙な懐かしさを覚えて……。そこにズームインしたらドラマができるような。ほんの何秒かの出来事です。その時、私はこれから先ずっとこの人と一緒にいるだろうなと直感しました。
私は小生意気な子だったのに、彼は「イルカさんにはいちいち教えなくていいですよね」と言葉遣いも丁寧で優しい、謙虚な人でした。そして私の才能を一番最初に認めてくれた人でした。
夏休みに学生主催のコンサートを渋谷公会堂で開くというので、彼からアルバイトを頼まれました。ステージ後ろにかける「FOLK SONG」のアルファベットの看板を作りたいから手伝ってほしいと。渋谷で待ち合わせ、材料を探したりして私がどういう子か見ていたんですね。最初は珍獣のように思っていたけど(笑い)、意外に素直な子なんだと思ったそうです。
彼は高校生の時から将来は音楽プロデューサーになるのが夢という人でした。私に会って、この子は歌えて曲も作る、将来はアーティストとして育てたいと思うようになっていったようです。
私は女子美を卒業したらどこか窯元で陶芸の修業でもできたらと思っていたけど、彼と結婚するという期待も50%くらいあったのかな。その流れで一緒に音楽をやるのもいいかもしれないと思うようになっていました。
19歳の春、「結婚して一緒に音楽をやっていきませんか」とプロポーズされました。当時、彼はシュリークスというバンドのリーダーで、メンバーだった山田パンダさんが南こうせつさんと伊勢正三さんのかぐや姫に移り、もう一人の所太郎さんは家を継ぐので、私と2人で活動することになりました。彼としては何年か2人でライブをやって度胸をつけさせ、タイミングを見てソロデビューさせる青写真を描いていたみたいですね。
「かぐや姫が歌わないならイルカに歌わせてもらえないか」
伊勢さんが作った「なごり雪」を初めて聴いたのはかぐや姫や吉田拓郎さんがいたユイ音楽工房の時。私はソロになり彼は私のマネジャーとして入っていました。彼は「なごり雪」を「いい曲だね」と言っていたんですね。その頃のかぐや姫は解散することが決まっていて「解散したらこの歌がもったいない」と業界内でも話題になっていました。
これは夫が亡くなってからこうせつさんに聞いた話ですが、私が出席していなかった会議で彼が「かぐや姫が歌わないならイルカに歌わせてもらえないか」とお願いしたそうです。それにみんなが賛同してくれたのが「なごり雪」を歌うことになった経緯です。彼は歌うことになったと結果しか教えてくれませんでしたけど。こうせつさんには「神部ちゃんのプロデュース力の勝利だよ」と言われました。
彼は30代後半でパーキンソン病になり、07年に59歳で亡くなるまで闘病生活が続きました。最晩年の7年間は友人がやっている旭川のリハビリ専門病院にお世話になり、私も近くに部屋を借りて仕事の時は東京にいる生活を続けました。今は後を継いでオフィス社長をやっていますが、彼の苦労と明晰さを今更ながら感じています。
コロナで去年はコンサートが50本くらい中止か延期になりました。うちには95歳と93歳の両親がいて自宅で介護しています。私がこんなに長く家にいたことがないので母には喜んでもらえましたけど。
5月にラブソングを集めたベストアルバム「あたしだって Love song!」をリリース、そして、このところ毎年出しているアーカイブシリーズの第7弾としてクリスマスソングを集めた「冬の贈り物」を発売します。メッセージソングよりラブソングやクリスマスソングを選んだのはこういう時だから、曲を聴いて感情を揺さぶられ、ウキウキしたり涙ぐんだりしてもらいたいと思ったからです。それは歌が持っている大きな力だと思います。
(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)
■11月10日リリース! イルカ50周年企画第2弾「冬の贈り物~イルカ アーカイブvol.7」