「北斗の拳」連載開始40周年 生みの親が語る 原哲夫「すぐ死ぬ脇役こそ手を抜かずに描いた」
「漫画はキャラクターだ」と教わった
苦闘の中で生まれた魅力的なキャラクターの数々には、細部にまで至る思いがあった。
「もともと子どもの頃から、カッコいいと思っていたブルース・リーや、松田優作を描くのが好きだったんです。その後、漫画原作者の小池一夫先生に『漫画はキャラクターだ』と教わった際、自分が憧れる実在の人たちの『キャラクターとしてカッコいい魅力』をエッセンスとして描き込めば、魂のこもった愛されるキャラクターになると気づき、これなら漫画家としてやっていけるのではないかと思いました」
登場するそれぞれの脇役も、全員主役になり得るつもりで手は一切抜かなかったという。
「例えば、南斗五車星の『炎のシュレン』は登場してすぐに死んでしまう役割でしたが、だからこそ主役以上に思いっきりデザインを入れました。継続するキャラクターの場合、衣装に凝ってしまうと同じデザインを描き続けるのが大変ですが、逆に脇役だと『今回で死ぬから、思いきり描き込もう!』というのができます。そうすると、数話限りのキャラクターでも、主役と同じくらい読者の印象に残っているんです」
連載開始から10週で打ち切りになる漫画が決まるというプレッシャーを抱えながらも、連載を続けられた“秘訣”がある。
「毎週『もう無理』と思いながら描いていたので、プレッシャーを克服していたつもりではありませんが、連載途中で気が付いたことがひとつあります。それは『もうダメだ……』と思ったら1回本当にやめて、心を切り替えた方がいいということです。本当に投げ出してしまうのではなく、自分の中でだけ『連載やーめた』って。ひとりで勝手に引退するんですよ。そして自分をダマして寝ると、『……やっぱりやらなきゃ!』ってなる。『やらなきゃ、でも嫌だな』と思ってグズグズやるよりも、1回すべて忘れた方がいい。そうじゃないと、毎週こなせなかった。あのころ人気アイドルだったキャンディーズが『普通の女の子に戻りたい』と言って解散したのを見て、『俺も普通の男の子に戻りたいな』って思ったのも懐かしいですね(笑)」
▽原哲夫(はら・てつお) 1961年、東京都生まれ。82年、週刊少年ジャンプで「鉄のドンキホーテ」で連載デビュー。翌83年、同誌で「北斗の拳」を連載開始。代表作に「蒼天の拳」「花の慶次─雲のかなたに─」ほか多数。織田信長の幼少期を描いた「いくさの子─織田三郎信長伝─」を月刊コミックゼノンで連載(2010年12月号~22年11月号)。現在、同誌上で「前田慶次 かぶき旅」の原作を手掛けている。