著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

中森明夫氏の新刊「TRY48」は父親殺しの書でもあり、昭和へのレクイエムである

公開日: 更新日:

■「実際に起こらなかったことも…また歴史のうちである!!」

 著者が寺山や三島を敬愛しているのは間違いないが、それ以上に愛しているものがあるとしたら、彼らが生き抜いた昭和という時代だろう。「平成とは昭和の余韻にすぎない」はなかにし礼の名言だが、青森育ちという共通項をもつ三つ年上の寺山は「昭和は明治を模倣し、反復している」とうそぶく。令和に『TRY48』を読むぼくには、いずれもが中森明夫の発言のように感じられる。その意味においてこの小説は父親殺しの書であり、昭和へのレクイエムでもあるのだ。それを裏づけるように、消えゆく寺山は言ってのける。

「実際に起こらなかったことも……また歴史のうちである!!」

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