松尾伴内は刑事さんに「犯人の落とし方」の演技を指導した
「フライデー襲撃事件」の大塚署での取り調べは警察署の窓に下ろされたブラインドの隙間から白々と朝の光が漏れ始めてもなお、続けられていた……。黙秘権を主張する者、弁護士を要求する者、さらには刑事ドラマに付きもののカツ丼を出せと刑事さんに迫る者……大塚署の取調室はまさに取り調べがコント化していたのだった。しかも、これらの行為がまだ序の口であったから、我がたけし軍団、開いた口が塞がらないとはこのことなりである。
取り調べを受けていた松尾伴内は「刑事さん、そろそろ出してくださいよ。ボク、あの設定、たまらなく好きなんですよね。耳元で囁くような呟くようなアレ、アレやられたらもうすべて話しちゃうだろうな……」「はあ? 耳元で何?」「またまた、何じゃないでしょう? あ、さっき席を少し立ちましたよね、そーだ、あの時にトイレで発声練習済ませてきたんだ! よっさすがベテラン!!」「だ、だから何? トイレ? 発声練習って?」「もー、わかってるクセに ♪母さんが夜なべをして手袋編んでくれた~、『かあさんの歌』を耳元で歌ってくれるんでしょう?」
「………」「歌の前に、松尾、そろそろ全部ゲロして楽になったらどうだ? おまえ、田舎、青森だったな、おふくろさんが女手一つでおまえを大事に育ててくれたんだってな。青森かあ、今ごろ、真っ白な雪に覆われてるだろうな……おふくろさん、うちのものが会いに行ったらスミマセン、スミマセン、私がちゃんとしてなかったから、すべて悪いのは私だっぺ、あの子は本当は心優しい、いい子ずら~、刑事さん、こん通り、こん通り許してやってくれっぺ~と、畑に額をすりつけて土下座してたってよ……そんなおふくろさんをもうこれ以上悲しませるんじゃねーよ! それで、ボクが故郷の冷たい雪に覆われた風景と、息子を思い、神棚に手を合わせる母親の姿を思い浮かべて罪の意識を感じ始めた、ハイ、その時!!」