五木寛之 流されゆく日々
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連載11514回 サッカーと国民性 <1>
先週、対スペイン戦に快勝した折りに、日本チームのメンバーや監督のインターヴューで、おや、と思ったコメントがあった。 今回の勝利はサポーターの皆さんの応援によってかちえたものです、と感謝の言葉をの…
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連載11513回 スポーツと国家の盛衰 <5>
(昨日のつづき) スポーツの階級性をいえば、卓球もまた庶民大衆のスポーツである。大正天皇が当時のピンポンを好まれたという話もあるが、もともと貴族や上流階級の遊びではない。テニスと卓球の関係は、囲碁…
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連載11512回 スポーツと国家の盛衰 <4>
(昨日のつづき) 対スペイン戦の中継は早朝の4時からだという。この2年あまり、早寝早起きの生活のリズムがすっかり定着している。午前4時といえば、白河夜船の最中だ。そこで暮らしのリズムを壊したら折角…
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連載11511回 スポーツと国家の盛衰 <3>
(昨日のつづき) スペインが7ゴールをむしり取ったコスタリカから、ジャパン・チームは1点もとれずに終った。 これまでサッカーの試合の中継を、まともに見たことがなかったが、なぜかこんどの大会は仕…
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連載11510回 スポーツと国家の盛衰 <2>
(昨日のつづき) <パンとサーカス>とは、よく言われる話だ。 民衆をなめている言葉のようだが、たしかに国家と国民の関係を反映させている定説として認めるしかない。 スポーツを体育としてでなく、…
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連載11509回 スポーツと国家の盛衰 <1>
このコラムの明日の原稿を書きながら、サッカーのコスタリカ戦の中継を観る。1点を返せないもどかしさに、原稿のほうが一向にすすまない。結局、原稿はあと回しに。 ふだんあまりサッカーは観ないのだが、W…
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連載11508回 もの言わねば唇寒し <4>
(昨日のつづき) これまでの数十年間、ずいぶん色々の体調不全があった。そのなかの一つは、睡眠時無呼吸症候群というやつで、これは結構、長く続いた。 夜中に息が止ってしまう症状である。しばらくたつ…
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連載11507回 もの言わねば唇寒し <3>
(前回のつづき) 公共施設や大学の音響について文句を言っていたら、ほかの事にも日ごろ不満に思っていたことが次々に頭に浮かんできた。 それは公共のさまざまな場所で遭遇する椅子の問題である。こんな…
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連載11506回 もの言わねば唇寒し <2>
(昨日のつづき) ある地方の大学に呼ばれて、夏季講習の講師をつとめさせられたことがあった。 新しい大学らしく、階段教室などモダンなデザインで、学生たちが講師の演壇を見おろすような構造になってい…
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連載11505回 もの言わねば唇寒し <1>
先週、ひさしぶりで人前で話をした。 コロナの流行以来、講演とかパネルディスカッションとかいった類の催しがピタッととだえた。まれに依頼があるとリモート出演のたぐいで、あまり気がすすまない。私にとっ…
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連載11504回 「折れない言葉」抄 <4>
(昨日のつづき) 『折れない言葉』の中から、いくつかの章を紹介する続きである。 <人は軽きが良き>――蓮如 あの人は軽薄でいけない、などという軽薄才子、という言葉もあって、わが国では批判の意味…
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連載11503回 「折れない言葉」抄 <3>
(昨日のつづき) 『折れない言葉』(毎日新聞出版)のなかからの抜粋である。P52~53。 <どこか老人っぽい青年と、どこか青年っぽい老人を良しとする>──キケロー。 イチローならぬキケローの言…
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連載11502回 「折れない言葉」抄 <2>
(昨日のつづき) 私が中学生の頃、不思議な本にめぐりあった。普通の四六判の単行本より、やや小さめのサイズの本だった。芥川龍之介の『侏儒の言葉』という本である。 <侏儒>というのが何のことなのか、…
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連載11501回 「折れない言葉」抄 <1>
今年の春に『折れない言葉』という本を出した(毎日新聞出版)。 ほとんど広告も出なかったので、ご存知ないかたも多いことだろう。書店もときどきのぞいてみるが、あまり見かけることもなかった。 初版…
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連載11500回 生島治郎の「傷痕」 <6>
(先週のつづき) 生島治郎とは、ある時期、毎夜のように麻雀の卓を囲んですごしたものである。徹夜した後に、喫茶店やホテルのロビーで、コーヒーを飲みながら飽きずに雑談することもあった。幾度か海外に連れ…
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連載11499回 生島治郎の「傷痕」 <5>
(昨日のつづき) 雑誌『NOW』に生島が寄せた文章は、編集部の企画として彼を金沢に行かせて、書かせたものらしい。カメラマンも同行しての短い旅だったようだ。 その後も文章は、こんなふうに続く。 …
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連載11498回 生島治郎の「傷痕」 <4>
(昨日のつづき) <ブルウ・シティ>というのは、どういう意味だろう。 金沢についてはいろんな形容詞があるが、大半は観光的な美辞麗句がほとんどだ。<加賀百万石の古都>などと月並みなものから、<北陸…
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連載11497回 生島治郎の「傷痕」 <3>
(昨日のつづき) ある年の夏、私は生島治郎とシンガポールのホテルのプールサイドで、ジンジャエールを飲みながら、とりとめのない雑談をしていた。急なスコールが去ったばかりで、気持ちのいい午後だった。 …
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連載11496回 生島治郎の「傷痕」 <2>
(昨日のつづき) 文壇事情には全くうとい私だが、わが国のミステリー&ハードボイルド小説界の成立に、生島治郎の存在が大きな役割りをはたしたことは自然に感じられていた。 彼にとっては、ひょっとする…
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連載11495回 生島治郎の「傷痕」 <1>
亡くなった同世代の作家たちのうちで、没後あらためて生前の仕事に感心したり、敬服したりする友人は幾人もいる。 そうか、こういう仕事もしていたのか、と遺作を読み返して、深くうなずく場合も少くない。 …