五木寛之 流されゆく日々
-
連載11496回 生島治郎の「傷痕」 <2>
(昨日のつづき) 文壇事情には全くうとい私だが、わが国のミステリー&ハードボイルド小説界の成立に、生島治郎の存在が大きな役割りをはたしたことは自然に感じられていた。 彼にとっては、ひょっとする…
-
連載11495回 生島治郎の「傷痕」 <1>
亡くなった同世代の作家たちのうちで、没後あらためて生前の仕事に感心したり、敬服したりする友人は幾人もいる。 そうか、こういう仕事もしていたのか、と遺作を読み返して、深くうなずく場合も少くない。 …
-
連載11494回 うらやましいボケかた <4>
(前回のつづき) 加齢によって人のフィジカルが次第に変容していくのは自然の理である。 心肺機能も衰えるし、筋肉も落ちる。目も耳も退化するし、歯も抜ける。体の節々が痛み、平衡感覚も崩れてくる。 …
-
連載11493回 うらやましいボケかた <3>
(昨日のつづき) このところ大学教授や医師といった知識人が、みずからのボケ(痴呆症やアルツハイマー病)などを冷静に観察し、その経過を赤裸々に語る手記が相いついで出た。 いずれもご本人の文章であ…
-
連載11492回 うらやましいボケかた <2>
(昨日のつづき) 先日の産経新聞の投書欄に、おもしろい読者の文章がのっていた。 かいつまんで紹介すると、もともと頑固で無口なタイプで、近寄りづらい感じのした祖父が、3年前に認知症になった。とこ…
-
連載11491回 うらやましいボケかた <1>
以前、といってもかなり昔のことだが、『文藝春秋』の本誌で『うらやましい死にかた』という企画を特集したことがあった。 全国の読者から、家族や友人など身近な人の<うらやましい死にかた>の実例を投書し…
-
連載11490回 タテのものをヨコに <5>
(昨日のつづき) まあ、大筋こんな文章だが、これを中国人の読者がどのように読むのだろうか、という点が私の関心事だった。 原文中の「ぼくらのグループの団長というか、代表格の人が非常に豪放磊落な人…
-
連載11488回 タテのものをヨコに <3>
(昨日のつづき) <ものを言え、言え、と蓮如は言う> という章のなかに挿入されているエピソードである。 言霊のさきはう国などと言いながら、実際には男は無口なほうがいいというわが国の文化的風土…
-
連載11487回 タテのものをヨコに <2>
(昨日のつづき) こんどの中国語版『大河の一滴』に関して、私が頑として原本の装幀にこだわったことについては、それなりの理由があった。 原本のブックデザインを担当してくれたのは、三村淳さんである…
-
連載11486回 タテのものをヨコに <1>
ヤクルト対オリックスの試合を見ていたら、この原稿がまにあわなくなりそうになってきた。テレビをつけたまま、机に向かって、原稿用紙と対戦する。 数日前に中国語版の『大河の一滴』が届いた。過日、同じく…
-
連載11485回 第三世代の恐怖と貧困 <5>
(昨日のつづき) <死>よりも<老>のほうが問題だ、といえば、そんなことはない、と批判もあるだろう。 しかし、<死>のあとは浄土か地獄かは別として、私たちには察することのできない世界である。 …
-
連載11484回 第三世代の恐怖と貧困 <4>
(昨日のつづき) 死を老いの一部と考える。すなわち死という固定した視点ではなく、動的な現象としてとらえるのだ。そこから<死去>よりも<老化>に重点をおく発想が現れてくるだろう。 最近、世を去っ…
-
連載11483回 第三世代の恐怖と貧困 <3>
(昨日のつづき) 昔、『生きるヒント』という本を書いたことがあった。何種類かの文庫にもなり、当時はいささかの注目を集めたものである。 その後、といっても二、三十年前のことだが、にわかに「死」に…
-
連載11482回 第三世代の恐怖と貧困 <2>
(昨日のつづき) <第三世代>というのは、私が勝手に名付けた高齢者層の呼び名である。 <第一世代>が、子供と20代の若者たちの層。 <第二世代>が壮年期の、生産労働人口だ。働き盛りの30代から6…
-
連載11481回 第三世代の恐怖と貧困 <1>
かつて<ジャパン アズ ナンバーワン!>と世界に喧伝された時代があった。 また、高度成長の夢に国民が酔った季節もあった。 あれから50有余年、いま世界のランキングで、わが国がトップを走るもの…
-
連載11480回 理由なき予感について <4>
(昨日のつづき) 敗戦のニュースを平壌で聞いたとき、私の体の奥にチカチカとまたたいたのは、理由なき重い予感だった。 いや、理由はあったのだ。平壌に父が転勤する以前に、日本人がほとんど住んでいな…
-
連載11479回 理由なき予感について <3>
(昨日のつづき) 高見順の小説に、『いやな感じ』というのがあった。1960年代に発表された作品だったと思う。 この『いやな感じ』という小説の内容は忘れてしまったが、題名だけは妙にはっきりと憶え…
-
連載11478回 理由なき予感について <2>
(昨日のつづき) これまで何度となく理由なき予感を無視して、痛い目にあったことがある。 虫の知らせ、などと言う。提案された話を面白いと思いながら、どこかかすかな違和感をおぼえたりすることがあっ…
-
連載11477回 理由なき予感について <1>
なにがおこるかわからん、というのが今年の年頭の予感だった。 コロナの帰趨はもちろんのこと、それ以外にも何か天変地異の事態が起こりそうな感じがあったのだ。 歴史に予感などというものがありうる訳…
-
連載11476回 47年前に書いたこと <5>
(昨日のつづき) この『流されゆく日々』の、連載初期のころの文章を探してみよう。 1975年12月24日掲載の饒舌体文章の一例である。タイトルは、 <わが青春のストリップ> むかしといっ…