五木寛之 流されゆく日々
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連載10316回 去りゆく昭和への挽歌 <4>
(昨日のつづき) 時代を象徴するものが歌である、という私の固定観念は、たぶん昭和初期の子供時代に培ちかわれたものだろう。戦争は常に歌とともにあった。 野口雨情、北原白秋、西條八十らの童謡運動は…
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連載10315回 去りゆく昭和への挽歌 <3>
(昨日のつづき) 昭和という時代をふり返って、なにが昭和を象徴するかと考えてみると、やはりかつての今様と同じく、それは歌謡曲なのではないかと思われてくる。 昭和はじつに歌謡曲、流行歌の黄金時代…
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連載10314回 去りゆく昭和への挽歌 <2>
(昨日のつづき) 梁塵秘抄とは、中世の流行歌集である。平安中期から鎌倉前期にかけて、世間に流行した歌謡の数々を集めたアンソロジーだ。 当時、今様といわれる巷の歌が熱病のように大流行した。 <…
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連載10313回 去りゆく昭和への挽歌 <1>
サッチー、こと野村沙知代さんが亡くなられた。沙知代さんは昭和7年の生まれで、私と同年である。また一人、昭和7年組の同世代人が世を去って、寂寥感がつのるのを禁じえない。 昭和7年、1932年という…
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連載10312回 真相はいつも『藪の中』 <5>
(昨日のつづき) 真実はすべて「藪の中」という思いを改めて痛感したことの一つに、兼好法師の話がある。 兼好は吉田兼好と呼ばれた14世紀の文人である。その著書『徒然草』は、日本三大エッセイの一つ…
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連載10311回 真相はいつも『藪の中』 <4>
(昨日のつづき) こんどの相撲界の問題のように、つい先頃おきた出来事でも真相は『藪の中』だ。まして50年、100年も昔の出来事が判然としないのは当り前のことだろう。 それが500年、1000年…
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連載10310回 真相はいつも『藪の中』 <3>
(昨日のつづき) 相撲界のトラブルは、いまだにニュースの渦中にある。テレビを見ていると、貴乃花部屋の前には、相変らず数十人のカメラマンや取材陣が張りついているようだ。 この問題がこれほど長く話…
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連載10309回 真相はいつも『藪の中』 <2>
(昨日のつづき) いわせてもらえば、歴史というものも実際には常に『藪の中』である。 明治、大正以来もそうだし、さらに中世、古代となると何が真実かは深い霧の中だ。 『応仁の乱』(中公新書)がブ…
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連載10308回 真相はいつも『藪の中』 <1>
『藪の中』は、大正末期に発表された芥川龍之介の短篇小説である。 いまさら荒筋を説明するまでもあるまい。『今昔物語』を下敷きにした殺人とレイプの物語だが、その関係者の証言が錯綜して真実がわからない。…
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連載10307回 健康情報の渦の中で <5>
(昨日のつづき) 目下、注目の話題は、やはり減塩の可否だろう。近藤医師の「塩分を制限すると早死にする」という発言は衝撃的だった。 すでに常識として塩分の過剰摂取は体に悪い、塩分はできるだけ控え…
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連載10306回 健康情報の渦の中で <4>
(昨日のつづき) 健康情報の氾濫も、それ自体はべつに問題ではない。読者として困惑するのは、その情報の内容がバラバラなことである。バラバラどころか、れっきとした肩書きの専門家の意見が、しばしば正反対…
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連載10305回 健康情報の渦の中で <3>
(昨日のつづき) 健康ニュースが氾濫している、と書いたが誇張ではない。 手もとにある『週刊朝日』の先週号のページをめくってみる。 トップが<和牛が食卓から消える!?> それに続いて《「…
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連載10304回 健康情報の渦の中で <2>
(昨日のつづき) 健康情報の氾濫は、いっこうに下火になる気配がない。 あれほど大騒ぎしたモリカケ問題も、フリン騒動も、相撲協会の内紛も、峠を過ぎれば昨日の話題だ。 しかし、健康に関するニュ…
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連載10303回 健康情報の渦の中で <1>
この数年、氾濫し続けていた健康情報が、いまや水位をこえて濁流と化したかのようだ。 あらゆる新聞・雑誌、そしてテレビなどが競って健康情報を大きく取り上げている。 さまざまな健康情報がいろんな立…
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連載10302回 関東の寺々こぼれ話 <5>
(昨日のつづき) 浅草寺には及ばないが、参詣者の多いことでは成田山もずば抜けている。平成16年には正月三カ日だけで260万人が訪れたというから凄い。 初詣での数では明治神宮につぐ全国第2位の多…
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連載10301回 関東の寺々こぼれ話 <4>
(昨日のつづき) 『男はつらいよ』は、テレビでくり返し放映されているが、相変らず人気があるようだ。『百寺巡礼』の関東篇で柴又を訪れたときも、観光客で大にぎわいだった。 車寅次郎ことトラさんは、ホ…
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連載10300回 関東の寺々こぼれ話 <3>
(昨日のつづき) 増上寺の話のつづきである。 浄土宗というのは、もともときわめて庶民的な宗派である。いや、あったというべきか。 比叡山というのは、天台の聖地であるというより、当時の最高の綜…
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連載10299回 関東の寺々こぼれ話 <2>
(昨日のつづき) 私自身、正直な話、これまで浅草寺の宗派が何宗なのかよく知らなかった。 浅草寺はもともと天台系の寺である。それがどういういきさつかは知らないが、戦後独立して、<聖観音宗>となっ…
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連載10298回 関東の寺々こぼれ話 <1>
きょうは都内のホテルで講演をすることになっている。 いま朝日放送BSで放映中の『百寺巡礼』にまつわる雑談をする予定だ。 旅行代理店のHISが各地の寺を巡るツアーを行っていて、今回が関東篇。 …
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連載10297回 メタボが長生きの真偽 <4>
(昨日のつづき) 小肥りのほうが長生きするかどうか、まだはっきりした結論はでていないようだ。 しかし、手術とか、その他のショックに対応するためには、ある程度の体力が必要なことはわかる。メタボに…