五木寛之 流されゆく日々
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連載10180回 ある若い人との雑談 <2>
(昨日のつづき) 「おや、A君も顔を見せたか。おひさしぶり」 「ごぶさたしてます。K君とご一緒だときいたもんですから。割り込んですみません」 「いやいや、ひさしぶりに締切りの催促じゃないお喋りを…
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連載10179回 ある若い人との雑談 <1>
「最近の世相はどうですか」 と、若い編集者のK君にきいてみる。 「最近の世相って、べつにイツキさんが隠居しているわけでもなし、ご覧のとおりです」 「隠居しちゃいないけどね、自分の感じ方といまの…
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連載10178回 自分自身のための広告─近況・新刊・連載・その他─ <5>
(昨日のつづき) このところ仕事部屋にこもって、原稿を書いたり、本を読んだりして終日、過ごすことが多い。 年をとると、いろんなことが面倒になるものだ。出不精もそうだし、対人関係のややこしさも負…
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連載10177回 自分自身のための広告─近況・新刊・連載・その他─ <4>
(昨日のつづき) 目下、体調のほうはあい変らずだ。 左脚の痛みは、この3、4年ずっと続いているが、そのほかは現状維持の態。 脚の痛みは、変形性股関節症と診断されているが、これという打つ手な…
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連載10176回 自分自身のための広告─近況・新刊・連載・その他─ <3>
(昨日のつづき) きょうは矢来町の新潮社の社内で、『親鸞をめぐる雑話』の3回目の講話である。 大阪からわざわざやってこられたご夫婦などを含めて、80名あまりの受講者に1時間45分あまりの話をす…
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連載10175回 自分自身のための広告─近況・新刊・連載・その他─ <2>
(昨日のつづき) 昔の流行作家というのは、俗にいう「カンヅメ」というのをよくやったものだった。「カンヅメ」とは、自宅を離れて、どこかホテルの一室とか旅館などに閉じこもることである。怠けないように作…
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連載10174回 自分自身のための広告 ─近況・新刊・連載・その他─ <1>
昨日、岐阜の大野町というところへ行ってきた。地元の文化協会設立30周年の記念行事で講演をするためである。 文化的な団体や組織は、全国で数えきれないほどある。しかし、最近、この国で文化を軽視する風…
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連載10173回 シベリア出兵の幻影 <5>
(昨日のつづき) チェコ軍団の話はひとまずおいて、というのは、この件について考えるとコラムの1回や2回ではすまなくなるからだ。 国民に不人気だったシベリア出兵、とはどういうことか。 日清、…
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連載10172回 シベリア出兵の幻影 <4>
(昨日のつづき) 正式の出兵以前から、軍はシベリアに進出したくてうずうずしていたと言っていい。 すでに出兵の数年前から、特務機関、その他のグループがシベリアで活溌な工作を展開していたのだ。石光…
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連載10171回 シベリア出兵の幻影 <3>
(昨日のつづき) 英・米・仏・伊など連合国側は、帝政ロシアと共にドイツと戦う仲間だった。 それが革命政権の成立とともに、共同戦線から脱落してしまう。新しい革命政府が勝手にドイツと休戦してしまっ…
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連載10170回 シベリア出兵の幻影 <2>
(昨日のつづき) 「シベリア出兵」というのは、日本人にもっとも知られていない戦争のひとつではないだろうか。 そもそもこれが戦争であることすらはっきりしない。シベリア「戦争」でなくて、なぜ「出兵」…
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連載10169回 シベリア出兵の幻影 <1>
中公新書『応仁の乱』が大話題だ。正直いって、「応仁の乱」に関心を持っている読者がそれほどいるとは思えない。それでもベストセラーになっているのだから面白いのである。「応仁の乱」については、私も名前だけ…
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連載10168回 また極寒の夏がきた <5>
(昨日のつづき) 体を冷やすことが健康に良くないことはわかっている。 しかし、寒気の中で暮らすという生活スタイルが、必ずしも体に悪いわけでもない。 山岳修行の人たちは、言語に絶する寒気の中…
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連載10167回 また極寒の夏がきた <4>
(昨日のつづき) 「子供は風の子」 などと戦時中は言った。薄着がやたらと奨励された時代である。 冬になると子供たちは皆、シモヤケ、アカギレ、ヒビなどに悩まされたものだ。足の踵のヒビワレから血…
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連載10166回 また極寒の夏がきた <3>
(昨日のつづき) お騒がせ大統領、トランプ氏の周辺がまたざわついている。 ロシア側の要人と会談のおりに、国家秘密を漏らしたとか漏らさないとか。そりゃあトランプさんのことだ。口をすべらせたのかも…
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連載10165回 また極寒の夏がきた <2>
(昨日のつづき) フランス風の小洒落たベーカリーで、朝・昼・夕食兼用の食事をする。野菜スープにキッシュ、カフェオレという、いかにも都会ならではのランチ・セットだ。 最近、一日一食の日が続いてい…
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連載10164回 また極寒の夏がきた <1>
寒い。このところ5月も末というのに、妙に冷える日が続いている。 年をとると誰でも脂肪が落ちる。シャツを一枚ぬいだようなもので、その分だけ気温の変化がこたえるのだ。それも冷えることに弱い。 も…
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連載10163回 風薫る五月の街で <5>
(昨日のつづき) 早朝5時、「中央公論」の来月分の原稿を書き終えてベッドにはいる。 少しまとまった原稿を書いた後は、頭が過熱しているので、すぐには眠りにつけない。玄洋社関係の本を読んでいる内に…
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連載10162回 風薫る五月の街で <4>
(昨日のつづき) こんどの土曜日、福岡で大災害がおきる、という噂が流れている。 どうかそんな予測が当りませんように、と願いつつも、不安をおさえることができない。 一寸先は闇、とは昔から耳に…
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連載10161回 風薫る五月の街で <3>
(昨日のつづき) 最近、高齢者の運転事故がしばしば報道される。 実際には高齢者よりも青年、壮年層の事故のほうが圧倒的に多いだろう。しかし、高齢者の事故報道が目立つのは、社会全体の無意識、意識的…