五木寛之 流されゆく日々
-
連載11660回 ギャンブルと私 <3>
(昨日のつづき) 私がはじめて国内の競馬場へ足を踏み入れたのは、20代の半ば頃のことだろうか。 大学を横に出て(中退のこと)、マスコミの最底辺で、くず拾いのような仕事をしていた時期だった。 …
-
連載11659回 ギャンブルと私 <2>
(昨日のつづき) 私がはじめて賭けごとに手を出したのは、敗戦後のことだった。平壌の大同江という河のほとりのセメント工場の倉庫に、家族で難民生活を送っていた頃のことだ。 そこには満州から国境をこ…
-
連載11658回 ギャンブルと私 <1>
昨夜、芝の増上寺の前を通りかかったら、なにやら大変な人出である。浴衣姿の外国人客などもいて、田舎のお祭りのような雰囲気。 なにごとだろうと立て看板を見たら、七夕という文字が見えた。 増上寺は…
-
連載11657回 作詞家としての親鸞 <5>
(昨日のつづき) 言葉の力というものがある。それは活字とはちがう。声が重要なのだ。 前回、述べたように<詩>は言葉である。そして<詞>は曲をともなって命を得る。 詩人と作詞家とはちがう。詩…
-
連載11656回 作詞家としての親鸞 <4>
(昨日のつづき) 親鸞は晩年、数多くの歌(和讃)を書いた。 和讃とは仏教上の数々の仏や先徳・高僧の遺徳をたたえる宗教歌である。 わが国における讃美歌、ゴスペルソングのようなものと言っていい…
-
連載11655回 作詞家としての親鸞 <3>
(昨日のつづき) 今様(いまよう)にもいろんな種類があった。 〽ちかごろ都に流行るもの―― と、跳ねるような調子の歌は、当時の伊達男のトップファッションをうたうラップみたいなものだ。 ま…
-
連載11654回 作詞家としての親鸞 <2>
(昨日のつづき) 今様(いまよう)というのは、10世紀末あたりからしだいに世の中にはやり始めた庶民大衆の流行歌である。 それまで流行していた歌には、神楽歌(かぐらうた)や、催馬楽(さいばら)、…
-
連載11653回 作詞家としての親鸞 <1>
最近、テレビをあまり見なくなった。 それでもツレヅレなるままにチャンネルをサーフィンして、面白そうな番組があると坐りこんで眺めたりする。 そんなふうな勝手な見かたのなかで、いくつかの番組を好…
-
連載11652回 歌は世につれ、世は? <5>
(昨日のつづき) かつて<うたごえ>の時代、というものがあった。 あれほど日本人というものが、おおっぴらに声張りあげて歌った時代は、なかったと言っていい。 基本的に<うたごえ>の店に集る人…
-
連載11651回 歌は世につれ、世は? <4>
(昨日のつづき) 歌は<世につれ>る。 しかし、<世は歌につれるか>? たしかに戦前から戦時中は、歌によって戦意が向上したことは間違いない。 〽わが大君に召されたる 命 栄えある朝ぼ…
-
連載11650回 歌は世につれ、世は? <3>
(昨日のつづき) 昭和歌謡が人気だとかいっていても、しょせんそれはメジャーな流行ではありえない。 いま現在、テレビその他のメディアで流れている歌のほとんどは、昭和や平成時代の歌謡曲ではない。リ…
-
連載11649回 歌は世につれ、世は? <2>
(昨日のつづき) 俗にいう流行歌、歌謡曲とは、いわばその時代の流行、世相、雰囲気を如実に反映しているものだ。 <世につれ>というのは、そんな現象をいうのだろう。 その反面、その時代に流行する…
-
連載11648回 歌は世につれ、世は? <1>
いま昭和歌謡が人気だという。 本当だろうか。テレビの歌番組などでも、めったに昭和の歌を聞くことはない。もちろん<懐しのメロディー>的な番組ではしばしば昭和の歌が登場することもあるが、おおむね戦後…
-
連載11647回 髪は失せても舌は。 <5>
(昨日のつづき) 〈沈黙は金>とか、<男は黙ってサッポロビール>とか、とかくこの国では口数の多いことは批判の的である。 『葉隠』などを読んでいても、多弁はよろしくない印象がある。 とは言うもの…
-
連載11646回 髪は失せても舌は。 <4>
(昨日のつづき) <口舌の徒>という言葉がある。 口だけが達者で、行動がともなわない連中を軽視していう表現だ。 しかし、口舌、つまり喋り、語り、人の心を動かすのも、また行動ではないか。なにも…
-
連載11645回 髪は失せても舌は。 <3>
(昨日のつづき) 中国の故事に、興味ぶかい話があった。 老子だったか、ほかの碩学の先生だったか忘れてしまったが、偉い古代の学者がいた。 そこに一人の真面目な弟子がいて、ながくその師について…
-
連載11644回 髪は失せても舌は。 <2>
(昨日のつづき) 静岡駅到着後、迎えの車で清水へ。 静岡市はやたらと新しい建物が目立つ街だ。道路も広々として、かつての外地の市街を思わせる印象。 たぶん、駅の左右で市街地の風情がちがうのだ…
-
連載11643回 髪は失せても舌は。 <1>
ひさしぶりで新幹線に乗った。 コロナの流行以前は、毎週のように新幹線で各地へ出かけたものである。ほとんどが講演の仕事のためだった。 それが火が消えたようにパッタリ途絶えて、旅をする機会もほと…
-
連載11642回 厠を出て街へ出よう <5>
(昨日のつづき) 尾籠な話だが、むかし軍隊では「早飯早糞、芸のうち」という言葉があったらしい。 起床ラッパで飛び起きて、大急ぎで飯をかっ込み、大至急で大小の用を済ます。ぐずぐずしていると古参兵…
-
連載11641回 厠を出て街へ出よう <4>
(昨日のつづき) 私は地方出身者のわりにはセッカチなタイプである。セッカチというか、あわて者なのだ。 何年か前に、デパートでトイレに駆けこんだら、中年の目の鋭いご婦人から、 「あなた、男性ト…