鈴木敏夫 新・映画道楽 体験的女優論
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酒井和歌子編(2)本物の“女の自立”を描いた「愛の牢獄」に衝撃を受けた
「愛の牢獄」は1984年に放送された、神代辰巳監督、酒井和歌子主演による3本目の2時間サスペンスドラマだ。ストーリーを説明すると、酒井和歌子は33歳まで処女だった資産家のお嬢さん。骨董品などの遺産を受…
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酒井和歌子(1)かつての清純派と性によって人間を描いてきた名匠の組み合わせの妙
鈴木敏夫は昔から神代辰巳監督の映画が好きだったが、最近改めてそれらを見直すきっかけをつくったのが、神代監督による酒井和歌子主演の2時間サスペンスドラマだった。 「僕は『めぐりあい』(1968年…
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芹明香<3>西成の風景に馴染んで根っからの娼婦に見える
神代辰巳映画の女優たちというテーマからは少しずれるが、女優・芹明香を語る上で田中登監督の「(秘)色情めす市場」(1974年)を外すことはできない。これは日活ロマンポルノという枠を超えて、日本映画史上…
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芹明香<2>「下手だね」セックスした時に彼女が言うとリアリティーがある
芹明香が登場した神代辰巳監督作品で、鈴木敏夫が印象的な一本として挙げるのが、「赤線玉の井 ぬけられます」(1974年)である。これは、売春防止法が4月から施行されようとしている58年の正月。東京・玉…
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芹明香<1>ロマンポルノのテーマはひとつ「人間は動物である」ということ
神代辰巳監督の女優たちをさらに語ってもらう前に、鈴木敏夫が日活ロマンポルノを見直して気づいたことについて、触れておきたい。彼が名古屋で過ごした高校時代。映画好きな国語の教師がいて、彼は映画監督・今村…
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宮下順子<2>「赫い髪の女」で演じた“セックスの塊のような女”に感動を覚えた
1979年の公開からかなり後になって、鈴木敏夫は仲間と神代辰巳監督の「赫い髪の女」を再見した。この映画は中上健次の小説を原作に、石橋蓮司演じる男に拾われた宮下順子扮する赫い髪の女が、彼の部屋に居つい…
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宮下順子<1>傑作の神代辰巳2作品 ロマンポルノは日陰の娯楽から一般映画になった
17年近い日活ロマンポルノの歴史の中で、傑作に数えられるのが神代辰巳監督の「四畳半襖の裏張り」(1973年)と「赫い髪の女」(79年)である。この2本に主演した女優が宮下順子。鈴木敏夫の中にも、この…
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早春スケッチブック編(2)「高畑さんはこの作品で岩下志麻さんという女優に興味を持った」
山田太一脚本の「早春スケッチブック」(1983年・フジテレビ系)で、主人公である望月家の主婦・都を演じた岩下志麻。彼女は18年前、自分の意思でカメラマン・沢田竜彦(山崎努)の子供・和彦(鶴見辰吾)を…
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中川梨絵の一種独特なエッチな雰囲気が「恋人たちは濡れた」からは感じられなかった
1970年代前半、日活ロマンポルノ初期の作品の中で、鈴木敏夫が最もエッチな女優として印象的だったのが中川梨絵だという。 「本当の初期に主演した白川和子さんや田中真理さんは上の世代な感じがしたし…
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一条さゆり<2>「神代さんにとって、ストリッパーは自分が思いを傾けて描きやすい女たちだったんじゃないかと思うんです」
神代辰巳監督によるストリッパーの一条さゆりが主演した「一条さゆり 濡れた欲情」(1972年)を見て、衝撃を受けた鈴木敏夫。編集者だった彼はその年暮れに、週刊誌「アサヒ芸能」で8本ある対談原稿記事の半…
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一条さゆり編<1>ポルノと謳いながらもちゃんとした映画であることに衝撃
1970年代初頭、東京・新橋の山手線のガード下に「新橋文化劇場」「新橋日活ロマン劇場」「新橋第三劇場」という3つの映画館があった。72年4月に徳間書店へ入社し、週刊誌「アサヒ芸能」の編集者として働き…
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桃井かおり<5>「ホーホケキョ となりの山田くん」まつ子の声を桃井さんにしようかと悩んだ
1988年、日活(当時はにっかつ)は17年間続いたロマンポルノ路線から、一般映画を製作・配給していくロッポニカ路線へと転換した。その第1弾作品の一つとして作られたのが、神代辰巳監督、桃井かおり主演に…
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桃井かおり編<4>「疑惑」で後妻役を好演…彼女の悪女演技には説得力があった
野村芳太郎監督の「疑惑」(1982年)は、松本清張のサスペンス小説の映画化である。桃井かおり扮する若い後妻を乗せて、車で海に飛び込んだ富豪の夫が死亡した。桃井は生き残るが、夫に多額の保険がかけられて…
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桃井かおり編<3>「もう頬づえはつかない」しぐさや表情の中に当時の若者の気分が凝縮されていた
1970年代後半。桃井かおりは、しらけ世代の象徴的な女優だった。マスコミの前でもたばこを吸い、酒を飲み、その奔放な言動が話題になって、自由を求める若者たちの時代感覚をリードする、ある種のオピニオンリ…
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桃井かおり編<2>男に愛情もむけられない女性の悲しさを体現、すごく印象的だった
神代辰巳監督が萩原健一、桃井かおり主演で映画化した「青春の蹉跌」(1974年)は、石川達三が68年に発表した小説が原作。物語は学生運動をやめてアメリカンフットボールに専念しながら、司法試験合格を目指…
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桃井かおり編<1>ジブリ作品にかなり興味を持っていることは確かだった
鈴木敏夫と桃井かおり。接点がなさそうな2人だが、1972年に徳間書店に入社して「週刊アサヒ芸能」の記者として働き始めた鈴木にとって、71年に映画デビューした桃井かおりは、まさに同時代のスター女優だっ…
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加藤登紀子編<3>崖の上のポニョのフジモトは「加藤さんのダンナ」
加藤登紀子がヒロインのジーナを演じた「紅の豚」(1992年)は、28億円の配給収入を上げる大ヒット作になった。彼女と鈴木敏夫との仕事の付き合いはこれ一度きりだったが、その後も2人の関係性が続いていっ…
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加藤登紀子編<2>「鈴木さん、私のプロデュースをしてみない」
宮崎駿監督の映画「紅の豚」(1992年)の中で、「ホテル・アドリアーノ」の女主人ジーナが「さくらんぼの実る頃」をフランス語で歌うシーンがある。酒場でピアノの演奏をバックに歌う彼女に、荒くれどもの空賊…
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加藤登紀子編<1>テープが緩んじゃうくらい歌声を聴き込んでいた
2020年6月、加藤登紀子はコロナ禍による緊急事態宣言解除後、歌手として初めて観客を入れた大規模なコンサートを東京で開催した。誰もが感染者が会場から出ることを恐れていた時、彼女は感染対策を万全にして…
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今井美樹編<3>映画に出てくるタエ子の表情やしぐさは彼女の演技をそのまま画にしたもの
通常のアニメーション映画では画を描いた後に声の出演者を呼んで、いわゆるアフレコ(アフターレコーディング)を行う。しかし高畑勲監督は事前に声を録音して、それに合わせて画を描いていくプレスコ(プレスコア…