鈴木敏夫 新・映画道楽 体験的女優論
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緑魔子編(5)山田洋次さんと森﨑東さんは松竹映画2作品で「聖女としてのイメージ」をつくり上げた
緑魔子は1968年公開の松竹映画「吹けば飛ぶよな男だが」でヒロインの花子を演じた。 この映画は大阪を舞台に、なべおさみ扮するチンピラのサブが、自分と同じ不幸な境遇で育った家出少女の花子に親近…
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緑魔子編(4)「大映映画に出てくる緑魔子さんは“狂気”が一つのキーワードになっている」
1968年2月に公開された大映の増村保造監督作「大悪党」を皮切りに、緑魔子は東映以外の映画にも出演するようになった。「大悪党」では緑魔子演じる女子大生が佐藤慶のヤクザにだまされ、セックスしているとこ…
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緑魔子編(3)自覚はなかったかもしれないけれど「日本のアンナ・カリーナ」をやっていた
1966年3月、緑魔子は「非行少女ヨーコ」に主演した。これは降旗康男の監督デビュー作で、幼馴染みを頼って東京へ出てきた家出娘のヨーコが、新宿にたむろする若者たちのグループと親しくなり、やがて睡眠薬を…
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緑魔子編(2)夜の青春シリーズ「まさに“愛の不毛”を体現していましたね」
1965年、1月公開の「ひも」を皮切りに梅宮辰夫主演の「夜の青春」シリーズがスタートする。梅宮扮する女たちを食い物にして生きるダーティーな男を主人公にしたこのシリーズは、68年までに全8作品が作られ…
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緑魔子編(1)デビュー作「二匹の牝犬」から大胆ヌード「妄想だけは膨らんだ」
1964年4月、鈴木敏夫は名古屋の東海高校へ入学した。その直前の3月、一人の女優が「二匹の牝犬」(64年)で東映からデビューする。それが緑魔子である。 「実は『二匹の牝犬』は、リアルタイムに見…
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神代辰巳の世界「作品を見直して、その古びていない面白さに改めて感心した」
この連載では長く、神代辰巳監督の作品とその女優を追ってきたが、これは鈴木敏夫がそれだけ神代監督の映画に深い思い入れがあったからだ。 神代監督の初めての日活ロマンポルノ作品「濡れた唇」が公開さ…
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神代辰巳の遺作脚本「芋虫」(2)「時子は宮下順子さん以外考えられませんね」
神代辰巳監督と岸田理生が書いた脚本「芋虫」に登場する2組のカップル。1つは美しい妻・時子と戦争で両手と両足を失った夫の春彦。もう1組は春彦の弟・夏吉と、女郎になった少女・おゆうである。やがて時子は思…
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神代辰巳の遺作脚本「芋虫」(1)五感を大事にしていた宮崎監督と神代監督「触って気持ちいいを画にできる才能」
神代辰巳監督の幻に終わった企画に「芋虫」がある。これは江戸川乱歩の同名小説をベースに、泉鏡花の「河伯令嬢」と「瓜の涙」の要素も取り入れてひとつの物語にしたもので、神代監督と岸田理生が共同で脚本を書い…
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神代辰巳の遺作「インモラル 淫らな関係」(2)神代監督は主演ふたりの素人っぽさを利用して、作品を作っている
神代辰巳監督の遺作「インモラル 淫らな関係」(1995年)は、当時ビートたけしの弟子でお笑い芸人の柳ユーレイ(現・柳憂怜)が主人公の武を、柳愛里がヒロインの悦子を演じている。柳ユーレイは北野武の監督…
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神代辰巳の遺作「インモラル 淫らな関係」(1)ビデオで見ることを前提に作られた作品
映画批評家の鈴木一誌いわく、神代辰巳は「3本も遺作がある、珍しい監督」だという。遺作の1つは奥田瑛二主演の映画「棒の哀しみ」(1994年)、2つ目は亡くなった後に放送されたTVドラマ「盗まれた情事」…
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余貴美子(3)全共闘の闘志たちは無様な生き方や死に様をさらしていった
「盗まれた情事」(1995年)は、余貴美子と高島礼子演じる悪女2人の罠にはまって、三浦友和演じる医者が滅んでいくドラマである。これを女性への愛や大金に目がくらんだ男の破滅と捉えることは簡単だが、鈴木敏…
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余貴美子編(2)常に女性の側に立つ神代監督の姿勢を感じる作品
神代辰巳監督の「盗まれた情事」(1995年)は、優秀な医者と2人の悪女の物語である。 妻と倦怠期にある三浦友和演じる医者は、雑誌で「妻と情事をしてくれる相手を探しています」という広告を見て応…
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余貴美子編(1)「盗まれた情事」には団塊の世代の男たちの愚痴が全編にあふれている
神代辰巳監督は1995年2月24日に亡くなった。その約4カ月後。7月1日放映されたのが、神代監督最後のテレビドラマ「盗まれた情事」である。鈴木敏夫は今まで見てきたテレビドラマの中でも、愛してやまない…
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山本陽子編(1)問題作「蛇苺」モラルを捨てて暴走していく女性を憑かれたように演じる
1987年5月29日に放映された「蛇苺」は神代辰巳監督、岸田理生脚本による3本目のテレビドラマである。冒頭、山本陽子と中谷一郎の息子がバイク事故で死亡。一緒にバイクに乗っていた親友の宮川一朗太も大け…
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原田美枝子編(4)「絶世の美女とは一人でいくつもの顔を持つ多重人格の女性に違いない」と高畑勲監督
鈴木敏夫は神代辰巳監督の「もどり川」(1983年)を見て、主人公・苑田岳葉と関わる5人の女性がくっきりと区別されて描かれていないと感じた。そこから彼は、かつて高畑勲監督と映画化しようとした、鎌倉末期…
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原田美枝子編(3)大正時代の男女の関係性を描いた集大成「もどり川」
神代辰巳監督は「四畳半襖の裏張り」(1973年)以来、何度も大正時代を題材にしてきた。その彼が最後に大正を描いた作品が、「もどり川」(83年)である。これは連城三紀彦の小説「戻り川心中」を原作に、萩…
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原田美枝子編(2)興行的には大コケした「地獄」には捨てきれない魅力を感じる
1979年6月。神代辰巳監督、原田美枝子主演の東映作品「地獄」が公開された。これは弟の妻と関係した資産家の兄が彼女と一緒に逃げ、女性の方は弟の放った追っ手によって殺害される。だが彼女は亡くなるときに…
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原田美枝子編(1)増村保造監督作「大地の子守歌」を見てすごい女優が出てきたと…
原田美枝子は10代の時に、フルスピードで日本映画界を駆け抜けた女優である。15歳の時に出演したデビュー作「恋は緑の風の中」(1974年)でヌードを披露し、76年には野性的な娼婦を演じた「大地の子守歌…
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市原悦子編(2)神代辰巳&岸田理生の作品に4本出演…彼女でなければ特殊な世界観を演じきれなかった
神代辰巳監督、岸田理生脚本によるテレビドラマ「母の手紙」(1985年)は、連城三紀彦原作によるサスペンスである。資産家の母親(市原悦子)と暮らす一人息子(田中健)が、身寄りのない女性(永島瑛子)を嫁…
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市原悦子編(1)刃物で刺されるたびに「痛~い」と叫ぶ演技にはリアリティーがあった
脚本家として、映画やテレビで神代辰巳監督と名コンビを組んだ岸田理生。彼女は1973年に寺山修司が主宰する演劇実験室「天井桟敷」に入団。寺山が監督した「田園に死す」(74年)で助監督を務め、初めて映画…