小説「ゴルフ人間図鑑」 第1話 シャンク
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(8)「やりすぎだぞ。やっぱり使えねぇな」
今こそ、日ごろの恨みを晴らす時だ。修一は3番ウッドを握りしめ、素振りをする。いつもより腕に力が入る。当然だ。今から人の命を奪うかも知れないのだ。修一は、今、スナイパーの心境だ。銃弾一閃で、人を倒す。…
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(7)グリーンまでは230ヤード
シャンクは、どんなに上手いゴルファーにも起きるミスショットだ。修一のようにゴルフがまずまずの腕前のプレーヤーに起きてもなんの不思議もない。まさか意図的にシャンクを打ち、隅田を狙ったと考える人間は絶対…
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(6)渾身のシャンクを放ってやる
「あの松の枝が邪魔にならないかな」隅田のボールとグリーンを結ぶ線上に松の枝がわずかにかかっている。 「絶対にグリーンに乗りますから」 「そこまで言われるとなんだか自信がつくなぁ。やってみる…
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(5)なんとかハーフ45を切れそうだ
今日は、肥料部のゴルフコンペだ。修一は、ゴルフの腕を見込まれて、隅田と菱刈、そして特別参加の社長の織田の中に組み込まれたのである。 「私も、この日を待っていましたから」 修一は言った。…
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(4)シャンクは病気みたいなもの
「大丈夫かぁ」 沼田がクラブを振り上げて叫んだ。 「ああ、大丈夫だ」 修一も声を張り上げた。 間一髪だった。若しボールに当たっていれば、大ケガをしただろう。 「危な…
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(3)絶叫の方向からボールが飛んできた
修一は、まだ顔を上げない。 ──こんな理不尽なことがあるか。落ち度なんかない俺をスケープゴートにしやがって。 修一の心の内の悪魔が大口を開け、炎を吹きだし始めた。 2 …
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(2)上司に媚を売るのは得意ではない
どうして品性卑しく、教養もない隅田がエリートとして処遇されるのか、社内の七不思議の一つとされていた。 ──木下藤吉郎なんだよ。 したり顔で言う社内の情報通がいた。 木下藤吉郎と…
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(1)「東大出てるんだろう? ホント、無能だな君は」
──殺してやりたい……。 桂木修一は、うなだれ、奥歯を噛みしめ、拳を握りしめていた。足を踏ん張る。床に食い込むほどだ。そうでもしないと、この場から目の前の男、部長隅田久常に飛びかかってしまい…