「いいビルの世界 東京ハンサム・イースト」東京ビルさんぽ著

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 新陳代謝の激しい東京で、再開発にのみ込まれずに生き残る「いいビル」を紹介するビジュアルブック。著者が定義する「いいビル」とは、1950年代から70年代の高度経済成長期に建設されたビルを指す。この時代のビルには、「合理性と効率だけを重視しない、面白さ」があり、加えて「手仕事」の良さもある。そして当時の新素材や丸みのあるフォルム、スペーシー(宇宙空間的)なデザインが、今の時代から見てもかっこよく、何よりもいいビルには「味わい」があるという。

 日本の「へそ」ともいえる日本橋と金融の中心である茅場町には、高度経済成長期に資金と時間を投じて建てられた見応えのあるビルが多い。

 そのひとつ、鉄鋼会館(1965年=写真①)は別名「鉄の殿堂」。当時最先端のステンレスの建材と工法を用いて建てられ、内装や家具にも各種鉄鋼の建材が使われている。ピカピカの外装と楕円と四角い窓を組み合わせた外観は建設当時、輝かしい未来の到来を予感させたことだろう。その外観以上に魅せるのが、9階にあるレストランの天井部。総重量100トンのパイプの鋼材を使い、世界初の「菱目張構造」とうたわれた新工法で造られた天井に守られた空間は圧巻だ。

 一方、かつて電通の本社だった電通築地ビル(1967年)は、窓のガラス面よりも外側に張り出した柱梁のコンクリートフレームが特徴の端正なデザインが何とも美しい。

 こうした堂々としたビルだけが「いいビル」ではない。むしろ、街に溶け込むように立つ小さな「いいビル」にこそ味わいが潜んでいるように感じる。

 八重洲の「渋井ビル」もそんなひとつ。知らずに前を通ったら、わずか数歩で通り過ぎてしまうほどの間口のエンピツビルなのだが、道を挟んで正面から見てみるとファサード全面がカーブを描き、貼られたタイルや斜めに飛び出した窓など、見どころが凝縮している。

 中には、隅々まで過剰に装飾された賃貸住宅「ドラード和世陀」(1983年=写真②)をはじめとする建築家・梵寿綱氏が設計した一連のビルなど、もはや芸術作品と呼びたくなるほどの建物もある。

 ほかにも、サイコロのような外観パネルはもちろん、内部に足を踏み入れれば、吹き抜けになっているらせん階段に配管や照明が取り付けられた銀座ステラビル(1970年)や、重厚なコンクリートのバルコニーとギザギザの建物の配置がつくり出すリズムが心地よい戦後を代表するデラックスマンション「川口アパートメント」(1964年)、斜面を利用した人工地盤の上に立つ頭でっかちな堀切のタクシー会社のビル(東京交通自動車株式会社=写真③)など500選のいいビルを紹介。見慣れた東京の街だが目を凝らして見れば、個性あふれる建物の宝庫なのだ。

 いいビルをいいビルたらしめているロビーなどの壁画や照明、ドアハンドルやバルコニー、窓……。いいビルを味わうポイントも多くの写真を提示しながら紹介。

 街歩きの新たな楽しみ方を教えてくれるおすすめ本。

 (大福書林 2000円+税)

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