「海上の巨大クレーン これが起重機船だ」出水伯明編・写真
海峡をまたぐ長大な橋の架設や、沈没船の引き揚げなど海上作業を担う縁の下の力持ち「起重機船」の知られざる世界を紹介するビジュアルブック。
幼いころから起重機船に魅せられてきたという空撮カメラマンの出水氏が、大阪に本社を置く業界の老舗、深田サルベージ建設の全面的協力を得て密着取材、危険と隣り合わせの工事現場とそこで働く男たちの姿を伝える。
同社は、世界最大級の3700トン吊り上げ可能な「武蔵」をはじめとする巨大起重機船を多数所有し、一連の本四架橋から東京湾アクアラインや横浜ベイブリッジ、関西国際空港連絡橋など、国内のビッグプロジェクトを手掛けてきた。
不安定な海上での作業はどのように行われるのか、大分県の別府湾に出動した起重機船「金剛」(2050トンまで吊り上げ可能)に乗船して、同行取材をする。この日、金剛に課せられた作業は、陸上で製作されたケーソンを吊り上げ、6キロほど海上を移動後に指定の場所に設置するというもの。
ケーソンとは、防波堤などの海中構造物の土台に使われる巨大なコンクリートの箱のことで、この日のケーソンは約700トン、アパート一棟ほどの大きさだ。
24本もの太いワイヤで固定されたケーソンを高さ100メートルのクレーンからのびる巨大なフックで慎重に吊り上げた金剛をタグボートが曳航する。
起重機船には自走機能がなく、目的地に到着すると、海上に設置された4カ所の係留ブイと索(ワイヤ)でつながれる。波や風がある海上で、その係留索を緩めたり縮めたりしながら船体を調節し、ケーソンを誤差わずか3センチ以内で所定の位置に据え付ける。設置物が橋梁になると、取り付けボルトの位置を合わせるために、誤差数ミリという精度が求められるという。
その難しい作業は、陸上、海上の作業員はもちろん、タグボートの他にも常に起重機船とともに行動する作業用アンカーの設置や移設を専門に行う「揚錨船」や、作業員の移動や用具の回収などの雑用を行う「着火船」などのチームワークによって成し遂げられる。船長や、作業員のリーダー役の「ボースン」(甲板長)、機関長など、現場で働く人たちの一人一人の仕事ぶりや、作業員の住居も兼ねる船内の様子も紹介。
何といっても、橋梁や退役潜水艦、沈没船など、間近で見る巨大構造物が吊り下げられる姿は圧巻だ。武蔵をはじめ3隻の大型起重機船の相吊りによって進められる東京ゲートブリッジの橋桁架設作業など、そのすべてにわたって想像を絶するスケールに、爽快感さえ感じる。
誰もが知る各地のビッグプロジェクトで人知れず活躍している起重機船と、その現場で働く人々にスポットを当てた好企画。
(洋泉社 1600円+税)