「巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつなぐ」竹内早希子著
「巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつなぐ」竹内早希子著
醤油、味噌、酒といった伝統的な調味料に欠かせないのが日本独特の巨大な木桶だ。木桶の板は多孔質で目に見えない小さな穴がたくさん開いていて、そこに蔵独自の酵母や乳酸菌がすみつく。それらがつくり出す味や香りの成分が、その蔵ならではの醤油や味噌の風味の決め手になっている。
ところが今、その木桶を作る桶職人が絶滅の危機に瀕(ひん)し、大桶作りの技術が絶えようとしている。本書は、その危機に立ち向かい失われゆく技能を復活しようという人たちの奮闘する姿を描いたもの。
明治時代には戸数の100軒に1軒が桶屋というほど隆盛を誇っていたが、先の戦争の食糧難時代に桶の最大の需要者である酒蔵が木桶を使わなくなり、次いで醤油蔵も使われなくなる。現在、日本で生産されている醤油のうち、昔ながらの木桶で造られているのは全体のわずか1%。この激減ぶりに、桶屋も次々に廃業。ここ30年ほどは堺市にある藤井製桶所1軒という時代が続き、そこも2020年をもって廃業することに。それを知った小豆島で木桶仕込み醤油を造っているヤマロク醤油の山本康夫は、知り合いの大工たちと共に藤井製桶所に弟子入りし大桶作りに挑戦する。
しかし、高さ・深さともに2.3メートルもの大桶を、接着剤を使わずにたがと竹釘のみで何枚もの側板を組み合わせて水が漏れないようにするというのは極めて高度な技術で、簡単に習得できるものではない。しかも側板に適した良質な杉、たがの材料となる長さ15メートル以上の真竹の調達も容易ではない。いくつもの困難を乗り越え手作りの大桶が完成したのが2013年。それを機に木桶職人復活プロジェクトを立ち上げる。最初は細々としたものだったが、今では全国に賛同者が増え大きな力になりつつあるという。
木桶と同様に危機に瀕している技能・技術はほかにもある。本書はそれらの良き導きとなるだろう。
<狸>
(岩波書店 946円)