「死者は生者のなかに ホロコーストの考古学」西成彦著
「死者は生者のなかに ホロコーストの考古学」西成彦著
比較文学者である著者は、ポーランド文学、イディッシュ文学にも精通、必然的にホロコースト文学に強い関心を示してきた。本書の「序」には1996年、米国のユダヤ系詩人、ジェローム・ローゼンバーグを招いたイベント〈二つの「ホロコースト」〉について触れられている。
著者が書いているように、1997年には、絶滅収容所の生き残りユダヤ人や元ナチ親衛隊員などの証言を記録したクロード・ランズマン監督の映画「SHOAH ショア」(1985年)が日本各地で上映され、そのテキスト版「ショアー」(高橋武智訳 作品社)も刊行された。このナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺の当事者たちによる生々しい証言によって、日本でも改めてホロコーストへの関心が高まった。
本書はホロコーストを素材に書かれたものを読み解きながら、「『他者が残したまま泥に塗れている詩の破片を見究める』というところに力点を置く考古学的な作業」だ。取り上げられるのは、エリ・ヴィーゼル、プリーモ・レーヴィなどの〈ホロコースト経験者〉だけでなく、ホロコースト前に米国に移住したイディッシュ語作家、I・B・シンガー、女性サバイバーを主人公とした「ソフィーの選択」を書いたウィリアム・スタイロン、少年サバイバーを描いた「異端の鳥」で論議を呼び起こしたイェジー・コシンスキなど、著者ならではの視点から読み解かれていく。