笠井信輔さんが振り返るペルー日本大使公邸占拠事件 現地でライフル銃を突き付けられ…

公開日: 更新日:

笠井信輔さん(フリーアナウンサー/58歳)

 元フジテレビで、現フリーアナウンサーの笠井信輔さん(58)のその瞬間は1996年、ペルー日本大使公邸占拠事件。約600人が人質にされ、人質解放まで4カ月以上に及んだ事件のさなか、現地でライフル銃を突き付けられた瞬間だという。折しも、この事件の当事者で、服役していたフジモリ元大統領は先月、恩赦されたばかり。当時の国際的な大事件のリアルな話をうかがった。さらにがんが完治した1年半前からの活動についても語っていただくと……。

 ◇  ◇  ◇

 MRTA(トゥパク・アマル革命運動)の構成員が仲間の解放を求めて占拠した事件が起きた時、当時フジテレビのアナウンサーだった私は「すぐに現地に飛べ」と言われてペルーへ飛び、「スーパータイム」の中継を現地から入れていました。

 流れ弾が飛んでこないプレスラインとはいえ、銃撃戦が起きると防弾チョッキを着て銃の音がする場所で取材するという、日本ではありえない仕事をしていました。

 しかし、1カ月経つと伝えることがなくなっていったんです。銃撃戦が減り、人質が解放されるのはもちろんいいことですが、膠着状態に陥り、「今日もだれも解放されません」ばかり伝えるようになって。

「スクープをあげなきゃいけない」と考え、さまざまなネットワークを駆使してMRTA幹部へのルートを見つけました。「アジトまで来るなら取材に応じる」と言っていると聞いたんです。

 ペルー側はプレス関係者に「ジャングルは危険だから入らないで」と要請していましたが、アジトはジャングルの中を車で6時間行かないと着かない。でもスクープはあげたい。だから報道陣であることを隠して旅行者を装って行こうと。カメラをバンの座席の下の奥に隠し、トラブルが起きた時のために元警察官のセキュリティーを雇い、私を入れて取材クルーの日本人4人と、現地の通訳とドライバーの計7人で出発。

 ガタガタ揺れるジャングルの道を尻が痛くなりながら3時間走るとペルー軍の検問があり、「止まれ。窓を開けろ」と。

 窓を開けた瞬間です、一斉にライフル銃が車内に侵入し、一人一人のこめかみに銃口が当てられたんです。ほとんどの軍人が少年兵。私に銃を突き付けたのは中学生くらいに見えました。少し背伸びして銃を構えている。引き金に指がかかっているからクシャミをしたら発砲するんじゃないかという状況。

「じっとしてろ」と言われ車内検査が始まりました。当時のテレビカメラは大きいから、「見つかったらどうなるんだ……」と怖かったですね。当たり前ですけどそんな経験、今までない。

 これが私の人生で一番大きい、その瞬間。銃口を当てられたまま「俺、普通のアナウンサーで戦場カメラマンでもないのに……」と考えていましたよ。

 何も見つけられずに済み、ひと安心。そこから3時間走り、2回目の検問。今度は荒っぽい車内検査をされ、カメラが見つかってしまった。そしたら、語気を荒らげて怒鳴り始め、みんなこめかみに銃口が押し付けられた。「これは死ぬんだ」と思った瞬間です。

 ところが、セキュリティーの人が怒鳴り返して言い合いになり、セキュリティーが何か気の利いたことを言ったらしく、検問の軍人が「やめ!」という意味の言葉を発し、ライフルが一斉に離れた。たぶんセキュリティーは「われわれの本当の目的」とか説得力のある言葉を言ったんでしょうね。それで検問を越えられました。

 MRTAのアジトには入れませんでしたが、アジトの手前にMRTAのメンバーがやってきて、バンの外で立ち話でインタビューが取れました。これだけ苦労した割には重要な話は聞けなかったけど、「人質を無理に傷つけるつもりはない」などの話は聞けたのでスクープとして伝えることはできた。

 僕らはペルーにいたので視聴者の反響はわかりませんでしたが、会社からは「よく撮ったな」と言われました。当時はコンプライアンスという言葉さえなく、テレビ業界はそういう取材が許されていました。今ならテロリストとかのアジトに向かったら会社から処分されるでしょう。思えば本当に恐ろしい経験をしましたよ。

#病室WiFi協議会を立ち上げ活動

 今の私はがんが消えて1年半が経ち、普通に生活し働いています。何の制限もありません。#病室WiFi協議会を立ち上げ、病室Wi-Fi運動という活動もやっています。

 入院中、コロナ禍でだれもお見舞いに来なくて寂しく、テレビ通話などで友だちと話すことが救いでした。でも、病室にWi-Fiがなく、自分のギガを使用して月に1万円ほど追加料金がかかって。

 退院後、そのことに疑問を持っている人が大勢いるとわかり、病室に無料のネット環境をつくろうと立ち上げました。厚労省などへロビー活動をした結果、去年、病室のWi-Fi工事に補助金がつきました。しかし、半年で終わってしまったので改めて補助金をつけてもらえるよう活動を続けています。

 (聞き手=松野大介)

▽笠井信輔(かさい・しんすけ) 1963年4月、東京都出身。87年からフジテレビ勤務。2019年からフリー。同年、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫であると公表。翌年退院し、復帰。フリーアナの他に#病室WiFi協議会の活動も。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  2. 2

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 3

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  4. 4

    元TOKIO松岡昌宏に「STARTO退所→独立」報道も…1人残されたリーダー城島茂の人望が話題になるワケ

  5. 5

    長嶋一茂は“バカ息子落書き騒動”を自虐ネタに解禁も…江角マキコはいま何を? 第一線復帰は?

  1. 6

    嵐ラストで「500億円ボロ儲け」でも“びた一文払われない”性被害者も…藤島ジュリー景子氏に問われる責任問題

  2. 7

    「コンプラ違反」で一発退場のTOKIO国分太一…ゾロゾロと出てくる“素行の悪さ”

  3. 8

    独立に成功した「新しい地図」3人を待つ課題…“事務所を出ない”理由を明かした木村拓哉の選択

  4. 9

    27年度前期朝ドラ「巡るスワン」ヒロインに森田望智 役作りで腋毛を生やし…体当たりの演技の評判と恋の噂

  5. 10

    "お騒がせ元女優"江角マキコさんが長女とTikTokに登場 20歳のタイミングは芸能界デビューの布石か

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦は大関昇進も“課題”クリアできず…「手で受けるだけ」の立ち合いに厳しい指摘

  2. 2

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 3

    マエケン楽天入り最有力…“本命”だった巨人はフラれて万々歳? OB投手も「獲得失敗がプラスになる」

  4. 4

    中日FA柳に続きマエケンにも逃げられ…苦境の巨人にまさかの菅野智之“出戻り復帰”が浮上

  5. 5

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  1. 6

    高市政権の“軍拡シナリオ”に綻び…トランプ大統領との電話会談で露呈した「米国の本音」

  2. 7

    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

  3. 8

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  4. 9

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  5. 10

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ