中村敦夫さんが語り尽くす俳優、作家、政治家…華麗なる遍歴の84歳が語る「悟りが来た」とは?
時代認識としては「中村ドクトリン」
さて、そんな僕の立ち位置です。
この年になると哲学的なことも含めていろんなことを考える。年を取れば、普通はものごとがわかってくるはずなのに、逆にだんだんわからなくなって、不思議な悟りが来てね。この世のことは人間なんかにわからないのが当たり前なんじゃないか。わからないことを肯定したくなってね。人間はものごとの発生から終わりまで物語があるように考えているけど、実際に起きていることは想像を超えちゃっているんですよ。
みんな死ぬことばかり心配して大騒ぎしているけど、そもそもどこから来たのか考えたこともないでしょ。来たところがわからないのに行くところがわかるわけない。哲学書を読むと因果関係はわかる。でも、原因があって結果が出るのは物質的なことであって、なぜ生まれてきたかと言われたら科学的に説明ができない。そういうことについて何か書きたいなと考えています。
僕の経歴は何度も局面が変わっているように見えますが、実は僕の中では何も変わっていないんです。いろんなことをやっているように見えても全部つながっている。つまり、万物は関連しながら、同時に分裂している。
日本人は同じ場所に座りたがる国民で、そこで権力や富を築きたがる。動かない、一つのことに執着して完成させるのが美徳とされる。そうしていれば組織の中で順番が回ってくる。でも、僕は自分が面白いと思った方に動く。切り込んでいくとケガもするけど、そっちに突っ込んでみると違う世界が見えてくる。そもそもそういう気質ということであって、局面が変わっているということではないんです。
時代認識としては、「中村ドクトリン」というのがあります。僕にとっての原則論を書き留めたものです。
■セクハラとパワハラの「セパ両リーグ」
一つは経済成長至上主義の破綻です。世界はいつまでたっても戦争をやめようとしない。それは経済成長至上主義という宗教から抜け出せないからだと思っています。経済成長至上主義は儲かることがいいことだと叫ぶ。その最たるものが戦争です。戦争をやればやるほど人が死ねば死ぬほど儲かる人たちがいる。
どこかの政治家のようにトップの座が危うくなると戦争を始めるというのもある。戦争するとそれまでのことがチャラになるからね。
2つ目は環境破壊。環境を破壊し、自然を壊すほど儲かる人がいる。その最たるものは原発ですね。どんどん地球が放射能に染まり、生命の存続も時間の問題ですよ。
3つ目は日本の文化の問題。日本の文化は外国の文化と違って独特のものがあります。特徴的なのが階級社会。官僚や政治家が上にいて庶民が下にいる。この権力構造がパワハラを生む。男女でいえば男が上。その根本にあるのは言葉です。哲学者も言語学者も指摘しないけど、日本語はそもそも上と下、男と女が使う言葉が違っている差別言語。それがパワハラ、セクハラの原因。この2本立てが「セパ両リーグ」というわけです。
(取材・文=峯田淳/日刊ゲンダイ)
▽6月22日、開演14時「あれから13年 原発問題のいまを問う!」
第1部:中村敦夫(作・出演)の朗読劇DVD「線量計が鳴る」
第2部:シンポジウム(浅田次郎ほか3人)
主催:日本ペンクラブ、専修大学ジャーナリズム学科
場所:専修大学神田キャンパス 黒門ホール