藤井聡太王位はスッポンで勝利! 暑さ忘れ力みなぎる「夏のパワー飯4選」

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 夏のパワー飯対決の一面もある。第6期叡王戦5番勝負で、史上初の10代3冠に挑む藤井聡太2冠(19)は、今月9日の第3局でスッポンを用いたきしめんのぽんきしで精をつけて勝利。2勝1敗で王手をかけた22日の第4局は、ウナギのひつまぶしをチョイスした豊島将之叡王(31)が挽回。終盤に向けての2局は、パワー飯を選んだ方が盤上の対決も制している。スッポンとウナギといえば、夏のパワー飯の定番。トップ棋士ならずとも食べたいだろうが、ほかにもある。東京海洋大の元非常勤講師・西潟正人氏(魚食文化論)に教えてもらった。

  ◇  ◇  ◇

■「ドジョウ」骨が口に当たる快感 子持ちは大当たり

 街の料理屋では、夏の滋養にドジョウを扱うところが多い。ドジョウは夏が産卵期で、晩秋には田んぼなどの泥に固まりになって潜り、冬眠をする。昔の田舎では稲刈りを終えた干からびた田んぼで、子供たちはドジョウ捕りをやったものだ。ぶっといヤツは、腹が真っ黄色で、栄養価もさぞ高かったに違いない。

 そんな風景は見られなくなり、今は養殖されている。ドジョウは生きたまま酸素を充填したビニール袋で流通し、生きたまま調理されるから、高級魚になるのは仕方がない。

 料理によって1匹ずつ開く店と丸のままがあり、好みは分かれる。鍋は柳川鍋の卵とじで、みなでつつきながら一杯やるには都合がいい。品書きにドジョウ汁とあるのは味噌汁のこと。熱い汁にドジョウが姿のまま浮いていると、驚くこと請け合い。初めてなら、暑さも忘れるはずだ。

 ドジョウの醍醐味は、ぬらりとしていながら、骨がチリチリと口に当たる快感だと思う。頭を噛みしめても、食べづらいことはない。

 卵巣が熟れて子持ちだったら、大当たり。甘い栄養が口いっぱいに広がると、残暑もうれしいごちそうだ。

「ハモ」湯引きは吟醸酒と一緒に 気品さえ感じる味わい

 夏にハモを好むのは西方で、京都が筆頭だ。開いたら太い中骨を外して、細い骨は専用の包丁で骨切りをする。面倒なようだが、素人でも慣れたら簡単だ。

 梅干しを裏ごしした梅酢を用意して、湯引きしたハモは冷水に取り、しっかり水気を拭き取る。冷やしておいたガラスの器に盛って、召し上がれ。おっと、吟醸酒も冷やすことを忘れずに。

 ハモは2メートルを超す大魚だが、本場では80センチ前後を最上とする。ハモの皮はもとより、浮袋も珍味で知られる。強いゼラチン質は、煮こごりにするとたまらない。上品な味わいには、気品すら感じられる。

 残念なことはハモの人気が関西に限られることだ。関東人は料理を面倒がるのか、魚屋に並ぶのはまれである。相模湾でも多く捕れているのに、もったいないことをしていると思う。

 ウツボの食文化は、四国・高知から房総半島までの黒潮圏にあった。ほとんどは忘れ去られて、今では圏内の一部にわずかに残るだけだ。

 漁師町の多くで「ナダ」と呼ばれるのは、海の荒々しさや力強さに共通するものだろう。夏に好んで食べるのは、力を分けてもらおうとする庶民の願いか。

 クジラ漁で有名な和歌山の太地町辺りから串本町へ向けて車を走らすと、道路沿いに「ウツボ有ります」の看板を見る。干物を焼いた細切れは、コンビニでもスナック菓子と並んで売られていて、意外と安くない。

 獰猛なウツボは、頭部を切り落としても噛みつくから要注意。強いヌメリと汚れはタワシで洗い流し、肛門の位置で2等分にする。

 刺し身にするなら、小骨の少ない肛門上の腹部がいい。骨を避けてそぎ取った白身は、ほのかにピンク色をして美しい。噛みしめるほどに甘味が湧き出る。恐ろしい面構えからは想像できない優しい味わいだ。 

「ウツボ」圧巻はたたき 獣肉を食べるような快感が走る

 ウツボも、皮のゼラチン質が素晴らしい。引いた皮も捨てずに、甘辛煮にするといい。薄紙のような皮が厚みを増し、箸で切れるようになる。

 頭部はエラを取り去り、丸ごと甘辛煮にする。恐ろしい顔を箸でつつきながら、一杯やるのも一興だ。皮もさることながら、引き締まった頬肉がたまらない。

 圧巻は、高知の郷土料理ウツボのたたきだ。三枚におろした腹部の身を使い、皮面から直火で焼く。中は生のままで冷水に取り、刺し身に切ったらポン酢醤油を振りかけていただく。

 ゴリゴリとした筋肉質の歯ごたえに、皮が焼かれた甘さが絡む。魚とは思えない、獣肉を食べているような快感が走り、全身に力がみなぎってくるようだ。 

「ウミヘビ」スープを一口 カツオを圧倒する出汁のもと

 海のヘビには、魚類でダイナンウミヘビなどのウミヘビ科と、爬虫類でコブラ科のエラブウミヘビなどがいる。沖縄でイラブーとはエラブウミヘビで、観光では久高島が有名どころだ。

 コブラ科だから猛毒を持つが、食べるには薫煙にしたりする調理法が大事らしい。よって現地では、高級魚ならぬ、超高級ヘビである。もとより好奇心旺盛な私は、カネに糸目をつけず久高島まで飛んだことがある。小さな港の周辺は貸自転車屋がイラブーの食堂で、飯はいらなかったが、定食を注文した。

 驚いた。イラブー汁の切り身は、まさしく爬虫類のヘビそのもの。黒光りするウロコは箸だと滑る。やっと口に入れても歯が立たない。

 無理して噛みつぶすと、硬いワイヤのような骨が束になって口に入る。身はしゃぶる程度で、食べなくてよかった。

 降参してスープを一口すすってまた驚いた。嫌みのない、濃厚な味わいはカツオ出汁を圧倒する。イラブーは手間暇かけた出汁のもとだった。

 簡素な資料館には、製造までの過程がイラストで表示され、傍らのポスターには「遠洋航海に出る海人が持参し、滋養強壮に役立てたといわれるイラブー。DHAやナイアシンを含む高い栄養価が特徴です」とあった。

(文・写真=西潟正人)

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