大船渡・佐々木に“163kmのリスク” TJ手術の権威が警鐘
古島弘三 慶友整形外科病院整形外科部長 慶友スポーツ医学センター長
最速163キロを誇る大船渡の佐々木朗希(3年)。今春の岩手県大会では登板することなく初戦敗退。去る25、26日の練習試合では連投し、26日は5回1失点ながら最速は146キロにとどまった。佐々木は4月の骨密度などの検査で、骨や靱帯などがまだ大人の体になっていないことが判明。投球数や強度を制限して試合に臨んでいるが、163キロを投げる際の肩肘へのリスクはどれほどのものなのか。故障しないためにはどうするべきなのか。トミー・ジョン手術の権威であり、スポーツ障害に精通する慶友整形外科病院の古島弘三医師に話を聞いた。
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■成長期で未熟
――163キロを投げるリスクを教えてください。
「米国の論文では『135キロ以上の球を投げると、故障リスクが2.5倍上がる』と発表されています。トミー・ジョン手術を受けるなど、肘をケガした人の傾向で見ると、135キロ未満の人より故障率が高いことがわかっている。球速が速いとそれだけ内側(側副靱帯)に負担がかかるのです。平均球速、変化球、投球数にも影響されますが、プロの選手が160キロを投げるのと、高校生が160キロを投げるのとでは大きく違います」
――体の成長度も重要ということですか?
「そうです。体ができていないとか、成長段階であることを考えれば未熟な部分があるわけです」
――佐々木は高校入学後も身長が伸びている。
「成長期は骨の成長に個人差がある。レントゲンで骨端線を見ればハッキリするのですが、人によっては実年齢と骨年齢が違うケースもある。成長期で骨が弱い時期に過度の負担をかければ、故障リスクは高まります」
■靱帯が切れる負荷
――163キロを投げる際にはどれくらいの負担がかかっているのですか。
「肘を支える要素は骨、靱帯、筋肉の3つ。投げる動作において、投球時の負担は約64ニュートンメートルで、そのうち靱帯への負担はその54%にあたる約36ニュートンメートルといわれている。実際、死体の肘の靱帯が33ニュートンメートルで切れたという実験結果があり、1球投げるごとに靱帯が切れるのと同等の負荷がかかっていると考えられています。負荷の値は選手によって大小があり、163キロだとより大きな負荷がかかっている可能性がある。それを何球も投げたら肘を痛める確率は上がるでしょう。肩も消耗品ですが、肘は若くして障害が出る傾向があります」
――佐々木は今、球速を落とすなど、投球の強度を制限しています。
「むしろするべきです。将来を考えたら強度を落とすことや球数を減らすことは必要。甲子園で勝たなきゃいけないと、何百球も投げてプロで活躍できずに終わるケースもある。メディアやファンが163キロを見せろなどと煽ってしまうと、彼を壊しかねません」
――メディアは早くも新時代の怪物と大騒ぎしています。
「これだけ騒がれると、どうしても球速に目が行く。球速を出そうと張り切って壊れたら何の意味もない。大船渡の国保監督がドクターの意見を聞いたり、学校がメディアから守ろうとやっていると思いますが、今は163キロを投げる時期ではないと思います」
――佐々木が壊れないために必要なことは何だと考えますか。
「163キロを投げる時点で関節の柔軟性を含めて、うまく体を使って投げられているということでしょう。周囲の大人は、球数と練習量と本人の身体的な部分に気を使って守ってあげること。佐々木選手も将来的にメジャーを目指すというなら、体のメンテナンスをしっかりし、ケガしないやり方で練習をしていく。ケガをしないためにはどうしたらいいのかを日々考え続けることで、自分の中に正解をつくり上げていくことが大事でしょう」