自分だけが生き残ったSF映画の主人公のような気がした
首相官邸の近くを撮影していると声をかけられた。振り向くと自動小銃を構え、防弾チョッキを着た武装警察官である。
「先ほどから写真を撮影しているようだが、あなたは旅行者ですか?」
「いいえ、プレスフォトグラファーです」
「それを証明するIDを見せてください」
国際プレスカードを見せると「旅行者なら外出自粛なのでホテルに戻ってもらいますが、プレスならOKです」。ロンドン在住の香港・チャイニーズのマーチンが教えてくれた「ロンドン市内には外出自粛を守らせるために500人の警察官が配備されている」という話は本当だった。トラファルガー広場にあるネルソン提督像の周りに人がいない。走っているバスに乗っている人もいない。日が暮れたころに着いたチャイナタウン、劇場街はゴーストタウンと化している。市内中心部のピカデリーサーカス、オックスフォードサーカスも人がいない。まるで<自分だけが生き残った>SF映画の主人公のような気がしてきた。唯一遭遇した報道カメラマンに「お互いに(新型コロナには)気を付けよう」と言葉を交わして別れ、宿に帰ろうと地下鉄に乗った。ひとつの車両に数人しか乗っていない。まだ午後8時だというのに──。=つづく