京都発 ミシマの「本よみ手帖」
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「数学する人生」岡潔著 森田真生編
近年、数学者・岡潔(1901~78年)の著作の復刊や選集の刊行が相次いでいる。「人の中心は情緒である」と述べた岡先生の言葉を時代が渇望する。その現れであろう。なかでも、群を抜いて「肉声」に迫る一冊が…
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「あきない世傳 金と銀」髙田郁著
舞台は大坂。時代は享保、元文(18世紀前半)。元禄という華やかな時代が終わり、倹約が貴ばれる世相へ様変わり。つまり、物が売れない時代に。そんな中、商いの町で商売を続けていくこととは……と書けば、まる…
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「一瞬の雲の切れ間に」砂田麻美著
先を知るのが怖い。だが、どれほど怖くても、映画が本人の意思と離れて進んでいくように、本書もまたこちらの手を止めることを許さなかった。 無理もない。この本の著者は、映画監督なのだ。とはいえ、フ…
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読後、「この人には敵わない」と衝撃
読了し本を閉じると、真っ先に私の口をついて出た言葉がこれだった。「この人には敵(かな)わない」。久しく受けたことのない衝撃だった。翌日、気がついた。ああ、これは「桜桃」を読んだときのそれに似ている。…
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「ぼくの道具」石川直樹著
できるだけ道具に頼らず、「素手で、裸足で、丸腰で生き」ていきたい。そう願っているが、現実には外部依存は高まるばかり。暖はエアコンに、知識はグーグル先生に、いずれ運転までもが……、といった具合に。それ…
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「後ろ歩きにすすむ旅」石井ゆかり著
僕たちが旅人だったころ、沢木耕太郎「深夜特急」に影響を受けていない者など皆無だった。あれから20年、それを「読んだ」という学生に会うことが皆無になった。旅物を読まなくなった、という以前に、そもそも旅…
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「且坐喫茶」いしいしんじ著
たまたま京都の古い地域に住んでいたので、お茶は割と近かった。近所の同級生のひとりが家元の息子だったり、友だちのお母さんがお茶教室の先生だったり。小学生の頃だ。例の家元の家が年に一度の初心者向けお茶会…
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「けもの道の歩き方」千松信也著
ミシマ社京都オフィスから車を30分も走らせれば京北町に着く。昨夏、会社の合宿で訪れると、澄んだ空気と満天の星空にすっかりやられた。1週間後、再訪熱に浮かされ、家族を連れて向かった。夕食後、無人の宿に…
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私の心は「いっきに」天空へ飛んだ
「いっきに読んだ」。今や、本を評する際のひとつの褒め台詞だろう。実は私もときどき使う。けれど、星についての本を形容するには、いささか不適切にすぎる。赤く輝くアンタレース(火星の敵)の名からもわかるよう…
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「現在落語論」立川吉笑著
立川流の二つ目・吉笑さん(31)が本を書いた。それも、師の師である談志著「現代落語論」のオマージュ的タイトルをつけて。 一度でも彼の寄席を訪れたらわかるが、その噺は実に「本的」である。「舌打…
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「世界がひっくり返って面白がる雑誌を作るぞ!」
雑誌「ヨレヨレ」をご存じだろうか? 2013年12月に創刊したこの雑誌は、ほどなく私たち出版人をとりこにした。「な、なんなんだ。むちゃ面白いじゃないか!」。調べると、発行元は出版社ではない。たんなる…
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シブヤ的日常へと連れ去る「95青春世代」必読の書
1995年、といえば?阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、は誰もが思い浮かべるにちがいない。では、「渋谷ファイヤー通り大騒動」を想起する人はどれほどいるだろうか。本書は、この騒動を真っ先に思い出す者…