「一瞬の雲の切れ間に」砂田麻美著
砂田監督の連作小説に目次からしてやられた
先を知るのが怖い。だが、どれほど怖くても、映画が本人の意思と離れて進んでいくように、本書もまたこちらの手を止めることを許さなかった。
無理もない。この本の著者は、映画監督なのだ。とはいえ、フィクション畑の人ではない。
「エンディングノート」「夢と狂気の王国」の2作は、どちらもドキュメンタリー映画。砂田監督からは、フィクションを手がけるイメージをそれほど感じたことがなかった。ところが、その浅はかな思い込みは、冒頭の感想の通りで、気持ちいいくらい、完全に裏切られた。
目次からしてやられた。「夏、千恵子の物語」「秋、吉乃の物語」「冬、健二の物語」「春、美里の物語」「春、浩一の物語」。この章タイトルを眺めたとき、漠然と、爽やかな話が始まる予感を持った。そうして本文に入っていくと、のっけからやられてしまう。
「不倫相手の家からちょっとそこまでビールを買いに出かける人が、本当はもの凄く逃げ足の速いことを、私は健二さんと出会って3年目のあの頃、ようやくぼんやり悟りだしていた」
な、なんと。衝撃さめやらぬうちに、1章読了。もっと続きを読みたい。そう思っていると、次章は、「健二さん」が会話で触れた人物による回想だった。そのときになってようやく悟った。この本が、5人の人物の視点から書かれたもの、しかも季節が経過しながら展開するという連作ものであることに。
ここでは、中身の紹介は避けたい。なぜなら、私自身がストーリーの流れを知ったうえで、小説を読むことを好まないからだ(だからこそ、連作短編集であるという帯に謳われた情報すらスルーしていた)。その代わり、印象に残ったフレーズを引用してみる。
「あんな笛持たせて母親の役目果たしたみたいにいい気になってたら、あっという間に死なせちゃって」(吉乃の物語から)。「生きているが故に降りかかる責任を共にする相手はここではない場所にいるのだと」(健二の物語から)。「まわりの母親たちが、もう一方の目で私を見ているのが、そちらを見なくともはっきりとわかった」(美里の物語から)
最後の章で、これまで一度も登場していなかった人物・浩一の回想が続く。そして、文字通り、予想できない結末が……。映像でも早く見たい!(ポプラ社 1400円+税)