小説 病院乗っ取り
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<17>手術が終わった安堵と開放感
聖ヨハネ友愛病院で、黄斑上膜の手術を受けた約一時間後、山岸良介は病室で、ミートソース・スパゲティ、白菜のおひたし、ミカンや桃のフルーツの小鉢、牛乳というメニューの昼食をとった。顔の左半分が強張ってい…
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<16>白内障の手術はわずか10分
(先生、取り残しなしでお願いしますね……) 山岸良介の眼球の中で、ちぎれた小さな膜をとらえようと、原田みさき医師が操作する器具の黒い影が追っていく。 珍しい光景に山岸は、これ、どこかで…
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<15>眼球の中で青い膜が舞う
「ねえ、これどうやって動かすの?」 夕刊紙の記者、山岸良介の白内障の手術に取りかかった原田みさき医師が誰かに訊いた。 山岸が載っている台を含む手術支援装置の使い方を訊いているらしい。 …
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<14>感覚はなく、ただ眩しい
黄斑上膜の手術当日―― 山岸良介は、外来患者の診察が始まる前に、眼科部長の原田みさき医師の診察を受けたあと、いったん病室に戻り、抗生物質や散瞳剤(瞳孔を拡大させる薬)の点滴を受けた。 …
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<13>入院の差額ベッド代は1日3万円
「東堂グループの病院は関東が中心で、あと北海道、東北、関西なんかにあるんだが、九州に一か所だけぽつんと小さな温泉病院を持ってるんだ」 夕刊紙のオフィスの近くの焼き鳥屋で、社会情報部長を務める先…
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<12>病院より儲けが出る診療所
「しかも白内障の手術も一緒にやるそうですよ。なんかネットで調べたら、高齢者の場合は、黄斑上膜の手術をしたら、たいてい白内障を発症するので、一緒にやるんだそうですけど」 夕刊紙のオフィスの近くの…
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<11>わずか20分の検査で2万円
聖ヨハネ友愛病院を診察で訪れた夕刊紙の記者、山岸良介が、菅本玲医師の診察のあと、眼科部長の原田みさき医師の診察を受けられたのは、午後七時近くだった。 遅くまで多くの外来患者をさばいた原田医師…
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<10>目の手術に全身検査の謎
(小児科がなくなったのか?) 四十代半ばの夕刊紙の記者、山岸良介は、聖ヨハネ友愛病院を訪れて、訝った。 各診療科の階と場所を表示してある大きな案内板からも小児科の名前が消えていた。 …
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<9>資金繰りに窮しレセプトを担保に借金
(狙えるのはどこだ……?) 東堂清春は、都内を走る理事長専用車の中で、資料に視線を落とす。 (やはり循環研世田谷病院あたりか……) 国立循環器病研究世田谷病院は、心臓および血管の…
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<8>人工透析患者が金の卵を産む
東堂グループの透析専門病院では、ベッドの患者たちは、二本の管を腕に付けられていた。一本は体内の血液を装置に送り込み、もう一本が、浄化された血液を体内に戻す。働いているのは数人の看護師と二人の臨床工学…
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<7>一晩の当直料は八万円
「ところが労基署は、医者の夜間の当直は勤務の延長だから、三万円の当直料じゃなく、時間外勤務として払えという。そうすると夜間の加算なんかを入れると、どんなに安くしても時給一万円になる。一晩の当直で一人八…
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<6>医者の犠牲的精神で成り立つ医療
「(黄斑上膜の)手術は、七月十日でいかがですか?」 聖ヨハネ友愛病院の眼科部長、原田みさき医師が、山岸良介に訊いた。 「はい、それで結構です」 さすが売れっ子の医師だけあって、三…
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<5>加齢で硝子体の水分が減少
二子玉川にある聖ヨハネ友愛病院はキリスト教系の総合病院で、病床数は五百二十。敷地内にはチャペルや、聖ヨハネ医療福祉大学もある。病院は落ち着いた砂色の外壁の十階建てで、東側と西側がそれぞれ十階建ての病…
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<4>目は命の次に大事なもの
MS(メディカル・サービス)法人が行うのは、医療機関への融資、土地・建物のリース、医療機器の販売・リース、病院給食、検査、医療事務代行、医薬品販売などだ。 日本では、社会医療法人を除いて、医…
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<3>診療報酬改定で赤字病院は7割に
「ほう、あんたも行くのか」 都内の河川敷の近くで、自称NPOの男の黒いマイクロバスにホームレスの老人が乗ると、同じ境遇の男女数人が乗っていた。 「じゃあ、行ってくれ」 目つきの鋭…
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<2>ホームレスを集めるNPOの車
「今回の診療報酬改定で、向精神薬の多剤併用に対する減額じゃなく、単剤の長期処方をターゲットにするっていうのは、珍しいなあ」 新興巨大医療集団、東堂グループのトップ、東堂清春がいった。 「…
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<1>地方の病院ほど採算が取りやすい
全国各地に八十を超える病院を擁する東堂グループの旗艦病院、東京東堂総合病院のそばを流れる目黒川は、桜が満開の季節を迎えていた。 七百五十床のベッドを有する、威風堂々とした十階建ての超高級病院…