ドクター・デスの再臨
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<120>雛森めぐみの心肺が停止
膳所をパトカーの後部座席に押し込み、犬養と明日香が両脇を挟む。犬養のスマートフォンに国分からの知らせが届いたのは、ちょうどその時だった。 『まだ搬送途中ですが、雛森めぐみの心肺が停止しました』…
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<119>中垣内の安楽死は陽動だったのか
「彼女をよろしくお願いします」 犬養は祈るような気持ちで頭を下げる。国分は心得たというように会釈を返した。 めぐみと国分を乗せた救急車を見送った後も、現場には空虚と敗北感が漂う。塩化カ…
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<118>めぐみは目を閉じてぴくりとも動かない
膳所は何も喋ろうとしない。ただ犬養を嘲るように薄く笑うだけだ。犬養は明日香に肘を掴まれて膳所から引き離される。 めぐみからの捜査協力がどこで洩れたのかは分からないが、膳所の目的は中垣内の安楽…
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<117>後方からめぐみの短い叫び声
予期せぬ闖入者はあったものの、捜査陣の統制は乱れていない。犬養と明日香はめぐみとともに、その瞬間を待ちわびる。果たして膳所は従前のようにヤマモト運輸の配達員に扮して現れるのか。それとも別の格好で周囲…
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<116>やっぱり外の空気は違うわね
五 ドクター・デスの死 〈1〉 四月二十七日、聖蹟桜ヶ丘。 この高台に聳え立つ住宅地に洋画家中垣内祐介のアトリエ兼自宅がある。住民にとって急な坂道はちょっとした苦痛だろうが、犬養…
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<115>わたしを現場に連れていって
犬養と明日香は中垣内の入院先に急行し、彼の主治医を懸命に説得した。最初は頑として口を開かなかった主治医だったが、中垣内が積極的安楽死を考えている可能性を告げると渋々ながらカルテを見せてくれた。 …
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<114>犬養は「画家」というワードに拘泥
めぐみの推測は腑に落ちるものだった。一定の視力を必要とする職業は自衛官、パイロット、競艇選手、客室乗務員など数あれど、失明が自死に直結するものとなるとやはり美術関係に絞られてくる。たとえば写真家、画…
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<113>失明の方が重大とはかなり特殊
『膳所さんの気持ちは痛いほど分かります。でも』 「待った」 犬養の制止でめぐみはキータッチを中断する。 「最後になる依頼の内容が知りたい。現在は潜伏している膳所も三日以内に患者の許…
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<112>言うに事欠いて危険手当とは
めぐみは次の文章を打ち始める。 『最近になって膳所さんが積極的安楽死に関与していることを知りました。旧弊な倫理観に囚われず積極的安楽死を遂行していることには賛同しますが、安楽死にかかる費用が二…
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<111>拘置所の中から膳所にコンタクト
翌日、犬養と明日香は資料室から持ち出したパソコンを携えて東京拘置所に向かった。 「ずいぶん久しぶりな感じがします」 めぐみは自身の持ち物であったパソコンをひどく懐かしそうに撫でる。本日…
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<110>今やめぐみ以外に頼る術はない
〈4〉 雛森めぐみを利用して膳所の居所を特定させる――めぐみ本人からの提案は犬養の予想通り捜査本部を困惑させた。 果たしてドクター・デスであるめぐみの呼びかけに膳所が応えるかどうか疑問…
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<109>わたしが接触を試みればどうでしょう
面会室のめぐみは膳所の行方が杳として知れないことを聞くと、さもありなんとばかりに軽く頷いてみせた。 「前々から覚悟を決めていたのかもしれませんね。そうとでも考えなければ手際が良過ぎます」 …
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<108>人命でカネ儲けを考える男ではない
同じ公務員の身分なので殊更役人をいたぶる趣味はないが、責任のひと言はよほど若垣の尻を叩いたらしい。多忙なはずの室長代理は十五分後に姿を現した。 犬養が膳所智彦の名前を出すと、国分は目を剥いて…
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<107>膳所の退省間際の部署名に見覚えが
「現職員ならともかく、ずいぶん前に辞めた人間だ。重大事件の最重要容疑者ともなれば火の粉が飛んでくる前に全面的に協力してくれるさ」 霞が関一―二―二、中央合同庁舎第五号館本館は警視庁と目と鼻の先…
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<106>膳所と容疑者の歩容認証が一致
犬養と明日香がいったん本部に戻ると、案の定麻生は不満を溜め込んだ顔をしていた。 「ついさっき岩手県警から連絡があった。膳所智彦は両親の死後は一度も実家に戻っていないそうだ」 「兄弟仲が良…
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<105>着の身着のままで飛び出したか
犬養たちが膳所の部屋を隈なく捜索したにも拘わらず、彼の交友記録に類するものは何も発見できなかった。もっとも今は友人の情報などは全て携帯端末に収めているのが当たり前なので、犬養は大して失望もしない。 …
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<104>逃亡したにしてはタイミングが良過ぎる
膳所の人となりを聞けば聞くほど、犬養は疑惑を深くする。とにかく病院にいないとすれば他の居場所は自ずと限られてくる。今頃は自宅マンションに向かった別働隊が膳所の身柄を確保したところか。 だが犬…
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<103>安楽死実行日と非番が重なった
〈3〉 捜査本部に取って返した犬養たちは国分から提供された医療従事者リストの中から膳所智彦の現況を確認する。千葉県八千代総合病院勤務、緩和ケア科担当。 「急襲しろ」 麻生の命を受…
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<102>安楽死はあくまでも救済措置
犬養はめぐみに更なる説明を求める。 「膳所が求めてきた詳細な説明というのは、どんな内容だったんだ」 「かなり具体的な話。できる限り患者を苦しめないためにはどんな薬剤を投与すればいいのか。…
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<101>知っている人に声の質が似ている
「新聞を読みました。残念ながら三件目の事件が起きてしまったみたいですね」 そう言いながら、めぐみに同情している素振りは見えない。 「足繁く通っていただいて申し訳ないんですけど、まだリスト…