ドクター・デスの再臨
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<80>めぐみなら検察の思惑はお見通し
「しかし班長。雛森めぐみなら検察の思惑くらいお見通しじゃないんですか」 彼女には何度か裏をかかれた苦い記憶がある。明日香が警戒するのも当然だ。 「だろうな」 苦い記憶を共有する麻…
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<79>検事は御子柴との対決を避けた
めぐみと司法取引を交わす件は直ちに刑事部長を介して氷野検事に伝えられた。場合によっては直接の窓口になった自分も呼びつけられるかもしれないと犬養は覚悟していたが、結局声が掛かることはなかった。麻生がぼ…
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<78>司法取引だけでも頭が痛いのに
東京拘置所から捜査本部に戻った犬養たちは早速麻生に面会の結果を伝える。普段から独断専行の傾向が否めない犬養だが、担当検事の承諾が必要な今回ばかりは規定の手順を踏まなければならない。 「司法取引…
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<77>めぐみの口から御子柴の名前が
めぐみの言葉には生中な反論を許さない説得力があった。だが犬養以外の人間を納得させるためには更なる信憑性が必要になってくる。 「あなたのスマホとパソコンは既に押収されて徹底的に解析されている。だ…
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<76>捜査の役に立つかは犬養次第
「わたしを誘導するつもりですか」 「誘導なんかじゃない。ただの確認だ。司法取引するにしてもお互いをより理解することが前提になるだろう」 「そんなことを言われたらわたしは捜査に協力するしかな…
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<75>JKリーグは俺たち共通の敵
犬養の葛藤を見透かしたようにめぐみがうっすらと笑う。こちらを挑発しているのは明らかだった。 「まさかわたしが拘置所に入っているうちに、犬養さんは裁量権を持つ階級に昇格したのかしら」 「あ…
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<74>弁護人が有能でないのは検察には福音
「取引ということか」 犬養が鎌をかけてみると、めぐみは知っていて当然というように頷いてみせた。 「積極的安楽死が違法行為であるのは知っていましたから、少しでもわたしに関わりそうな法律は調…
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<73>情報提供して私の裁判が有利に?
〈3〉 「それで犬養さん。この面会の目的はいったい何なのですか。わたしに模倣犯の存在を伝えて不機嫌にさせるためとも思えませんけど」 「あなたは積極的安楽死の報酬に大金をふんだくるJKリーグ…
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<72>めぐみは己を犯罪者と考えていない
「大金ですね。とても実費のみの金額とは思えません」 「あなたにも、その程度の庶民感覚は残っていたか」 「ちょっと心外です」 めぐみは本当に心外そうに唇を尖らせる。 「わたしは…
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<71>金額を聞いた途端、顔が強張った
拘置所では代金さえ払えば新聞を購読できる。犬養の記憶では確か三紙のうち一紙しか購読できないはずだが、それでも世の中の動きを知るには充分だろう。 「岸真理恵さんがパーキンソン病との闘いの末、安楽…
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<70>この女が世間を騒がせたドクター・デス
拘置所に到着した二人は面会手続きを済ませて待合フロアに進む。フロアのモニターには受付番号が表示され、犬養たちに手渡された整理番号と同じ番号が呼び出されたら受付窓口から面会室に向かう。コンクリート打ち…
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<69>原子炉よりよほど得体が知れない
東京拘置所に向かう車中、明日香はずっと黙り込んでいた。 「ついてくるとは思わなかった」 犬養が話し掛けると、ようやく明日香の唇が開いた。 「犬養さん一人でいかせる訳にいきませんよ…
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<68>上に睨まれたら昇進できないぞ
「警察は常に追いかける側だから後追いになるのは当たり前だ。収監中の未決囚から参考意見を訊くのも、まあいいとしよう。しかし相手がドクター・デスとなると課長や部長が問題視しかねない。痛い目に遭ったのは俺た…
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<67>お前は女には簡単に騙される
明日香と話した直後、犬養は麻生から呼ばれた。 「ドクター・デスに面会するつもりらしいな」 おそらく明日香が注進に及んだのだろうが、腹は立たない。自分が明日香の立場ならきっと同じ行動をと…
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<66>未決囚の言葉が信用できるのか
〈2〉 明日香は犬養の計画を聞くなり顔色を変えた。 「本気ですか」 「俺が捜査に関して冗談を言ったことがあるか」 「犬養さんが時々突拍子もない言動をするのには慣れたつもりでし…
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<65>ドクター・デス本人に心当たりを?
事前に用意されていたらしく、翌日には厚労省から首都圏内の医療従事者リストが到着した。網羅されているのは茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川の医療施設に勤める各医療従事者の氏名と住所と職歴だ。 …
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<64>安楽死の話には娘の面影がちらつく
腹に溜めていたものを吐き出しても楽になるとは限らない。本音を口にした国分は舌に吐瀉物の残滓が残っているように顔を顰める。 「積極的安楽死の推奨というのは少し極端じゃありませんか」 「いえ…
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<63>お巡りさんにはかないませんね
「医政局の使いとして申し上げるのはここまでです」 国分は用件を済ませたという安心感からか、ふっと肩の力を抜いた様子だった。その一瞬を捉えて犬養は質問を投げた。 「じゃあ厚労省医政局の建前…
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<62>現役医師でなくとも犯行は可能
厚労省からの協力と聞いて、犬養はすぐにぴんときた。 「厚労省さんからの協力というのは、ひょっとしたら医療従事者のリストですか」 「察しが早くて助かる」 国分はようやく本題に入れる…
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<61>国民の安楽死に対する認識は一変
国分の説明で、彼が捜査本部を訪れた意図がようやく腑に落ちた。 「前回は警察の尽力で無事に解決し、我々厚労省に勤める者たちもいったんは胸を撫で下ろしました。ところが長山瑞穂さんの事件が発生し、再…